祝! 伝説のライヴ〜HOW THE WEST WAS WON

 昨年〜今年はどうしたことか、音楽や映像関連での動きがにぎやかである。
映像関連ではLDの時代に高い金額を払って手に入れた中古の映画等(たいていこの手のソフトはホラーであるとか文芸作品が多い)、こぞってDVDでリリースされてきて、もはや苦笑いするしかない始末。ゴダールやブレッソン、ブニュエル、フェリーニ、タルコフスキー...いったいいくらつぎ込んだことであろう。そうはいいつつも、同じものを購入してしまうのである。DVDになってもトリミングに満足できない作品もあるが、タルコフスキーの「ストーカー」は、RUCISCOから出てるやつが映像が綺麗なことだけでなく、字幕が消せてうれしい。特にDVDが出始めのころなどは字幕が消せないものが結構あったため、買うのを躊躇したものである。
 DVDがこれだけヒットしたことでうれしいことは、今までリリースされなかった作品がでてくる可能性が高いことである。未だかつて一度もソフト化はおろかTV放送さえされたか定かではなく、劇場公開にいたっては1〜2週間程で打ち切りされ、今後もリリースされることは、ほぼないであろうと思われた、あの橋本忍監督作品にして、カルト的人気の迷作「幻の湖」までがリリースされた(機会があれば一度ご覧ください、とにかく凄い作品です。まさに迷作)。

 音楽関連に目を向けてみると、キング・クリムゾンの「アース・バウンド」、「USA」という2つのライヴ盤のリリースが注目されるであろう。実はCDでは初リリースである(とはいえ、かなりむかーしタワーレコードで輸入盤を一度みたことがあるようなないような)。レコードでも再プレスはあったかどうかも怪しい。すでに公式盤ということも忘れ去られつつあったような。それが30年ぶりにリリースされたのだから事件である。リリースされなかった最大の問題は音質の悪さと言われているが...コレクターズ・クラブにてライヴ音源をバンバンリリースしているものの、先の2枚に関してはロバート・フリップが、リリースに対してなかなか首を縦に振らなかったいわくつきの2枚である。それがどういうわけかリリースされたので、多くのファンは驚いたことであろう。珍しく新聞にも記事が載ったぐらいである。そして、売れに売れまくった(と思う)。音質に関してはかなり向上しているが、なによりも演奏のパワーに圧倒される。クリムゾンのライヴ音源の公式リリースは、今ではかなりの数であるが、今回の2つのライヴはそれらの中でもやはり別格である。リリースされて本当によかったと思う。

 そしてさらに驚かされたことがある。これまた前触れもなく、ドドーンと発表された、今回のレッド・ツェッペリンのライヴDVDおよびCDのリリース。前回のBBCライヴCDから6年後の出来事である。ツェッペリン結成35周年を記念してなのか、久々にジミー・ペイジ御大が膨大なライヴテイクを一から見直し、これだと思うものを集めたそうである。こんなこと誰が予想したであろうか、まさに今年の本命だろう。前作の「BBCライヴ」に関しては、リリース前にNHK-FM等で渋谷陽一等がオンエアしていたこともあり、いくつかの曲はなじみのあったものだ。今でもそのときに録音したカセット・テープがどこかに残っていると思う。

 ツェッペリンを聞き始めたのはたしか中学2年〜3年ぐらいだったと思う。「イン・スルー・ジ・アウトドア」がリリースされた直後ぐらい。最初に聴いたアルバムは友人の家で何気なく手に取った2ndアルバム。オープニングナンバーの「胸いっぱいの愛を」のジミー・ペイジのリフに一発でノックアウトされた。それまでクィーンばかり聴いていたが、それからというもの次第にツェッペリンに心は傾いていった。
 ライヴでのパフォーマンス、演奏力の凄さが語り継がれるバンドでありながら、ライヴ音源で公式にリリースされているのは、「永遠の詩」、「BBCライヴ」の2つだけである。映像に関しては、映画の「永遠の詩」、プロモ用の「コミュニケーション・ブレイクダウン」、ベスト盤に含まれている「カシミール」、スーパーショウのLDに含まれている「幻惑されて」(これはめちゃめちゃ格好いい)だけしか私はしらない。これらもののいくつかは、かなり後で出たものが多く、「イン・スルー・ジ・アウトドア」がリリースされた当時に存在していたものは、「永遠の詩」、「コミュニケーション・ブレイクダウン」ぐらいだったはずである。このような状況なので、ライヴを見たものにしか凄さがわからないという、なんとも歯がゆい思いをしたものである。

 ツェッペリンを聴きまくる毎日が続き、この曲をライヴで聴くとどんな感じだろうかといろいろ想像するが、実際聴いたこともないのでわかるはずもない。フラストレーションが溜まる。しかも悪いことに、ボンゾが死んでしまい、バンドは解散してしまった。かなりショックであった。そうこうしているうちに「CODA」が発表された。「イン・スルー・ジ・アウトドア」が終わりというのは、なんだかやりきれない気持ちではあったが、「CODA」によってその気持ちは少し払拭された。たしかアルバムの発売前に渋谷陽一のサウンドストリートで何曲かかかった記憶がある。アルバムは一日早く手に入れたためポスターがもらえなかったのが悔しかったが(笑)、とにかく早く聴きたかったので、買った日には20回ぐらい大音量でレコードをかけまくった。そして来る日も来る日も、公式に発表された10枚のアルバムを聴き続けたが...やはり新しい音がほしかった。しかしボンゾは死んでバンドも解散しているわけだから、スタジオワークは望めない。やはりライヴ音源を聴きたかった。

 高校に進学してからもツェッペリン熱がさめることはなく、周りの友人はよくツェッペリンと比較されるディープ・パープルや、リッチー・ブラックモアが脱退して新たに作ったレインボーに熱を上げていたようだが、私はあくまでツェッペリンにこだわった。順調に(?)その思いは激しさを増していったように思う。それはアンプのボリュームの音量に比例していた(笑)。いつも半分以上で聴いていたためか、縁側のガラス戸がいつもビリビリしていた。それでも「うるさい」と苦情を言う人が皆無だったので、音楽を聴く環境はとてもよかった。東京ではこうはいかない。すぐに苦情がくるであろう。しかしながら音量というのは大変重要なことである。特に「プレゼンス」は大音量で聴きたい。それこそジョン・ポール・ジョーンズのベースがちゃんと聞こえるぐらいの音量で聴きたいものである。音の塊が体の心まで届くぐらいに。

 このときにとてもよく購読していたロック関係の雑誌では、ロッキング・オンがある。当時280円という値段だったころである。値段も今のおおよそ半分で、厚さも半分。基本的には読者投稿で成り立ってる雑誌であるが、いろいろなバンドメンバーの写真が本の半分ぐらいを占めており、お気に入りの写真を本からはがしては壁にベタベタ張ったものだ。そしてその本の巻末ページには、海賊盤のお店の広告がバンバン載っていたわけだが、なぜかそれについては関心がなかった...というよりも気がつかなかった。ある日、なにげなくページをペラペラめくっていると、LED ZEPPELINの名前がこれまたバンバンでている。なぜ今まで気にもとめていなかったかわからないが、そのときは食い入るようにそのページを見つめていた。気がついたらバイトで稼いだなけなしの金を握り締めて、電車に乗って新宿まで出かている自分がいた。めざすは西新宿のK店。ありがちなパターンですね(苦笑)。高校一年の夏のことであった。

 初めて聴いた海賊盤の第一印象は、「ゲッ、なんだこりゃ、音が悪すぎ」。こんな酷い音は聴いたことがなかった(この音に比べればクリムゾンの「アース・バウンド]、「USA」なんて問題無しである)。編集も酷いものだった。このとき聴いたのは「LAST LEAD」とか書かれていた。一応フィジカル・グラフィティリリース後あたりのものだったようで、収録曲に「カシミール」(という曲名ではあるが、メンバーの誰もカシミールに行った事がないということらしい) が載っていたが、実際レコードには収録されてないという始末。で、その音が騒音にも近いのでさすがにアンプのボリュームを絞った。しかもレコードはソっていたため、ソリを直してからでないと視聴できなかった。酷いのになるとレーベルのシールが溝に食い込んでいるのもあるが、幸い私が購入したものではそういうものは一枚も出会ったことが無かった。
 音が悪いのにはまいったが、演奏のほうは凄かった。1曲目は「永遠の詩」で、騒音に近い音質のため、しばしフレーズが聴き取れないほどではあったが、勢いが凄かった。ライヴアルバムは「永遠の詩」だけしか聴いた事がなかったので、それはもうとても興奮したものだ。その他「ミスティ・マウンテン・ホップ」の勢い溢れる激しい演奏、「テン・イヤーズ・ゴーン」等々...すごかった。そしてなんだかとても新鮮だった。それもそのはず、ツェッペリンのライヴテイクは、フリーフォーム主体というか、毎回同じ曲を演奏しても異なる。突発的なアレンジも多数だし、とてもわくわくさせられる。「永遠の詩」は確かに音は綺麗だが、演奏自体は他のものと比べると、全体的にはそれほど凄いということもなく感じる。むしろアルバムのほうは、3日間の演奏を、聴くものにそれとわからないぐらいに見事なまでにつなぎ合わせてつくったペイジの編集能力の手腕の見事さが光るが。そうはいいつつも「ロックン・ロール」〜「祭典の日」であるとか「永遠の詩」〜「レイン・ソング」、「天国への階段」(結構この曲はスタジオテイクに忠実ですね)は素晴らしいけど。
 それからも海賊盤を漁りに何度か西新宿まででかけたものだが...いかんせん金額もかなり張るので、ポンポン購入できるものではない。しかも高校生の身分であり、自由に使えるお金も限られている。電車賃も大変かかるので、自分が希望するものはほとんんど買えない。そして買ったとしても、全てが良いわけではなく、ヨレヨレのペイジのギターで締りのない演奏や、演奏曲途中でカットされていることなどザラであるため、バクチ的要素が高かった。しかも今と違って情報がとても少ないわけで、ハズレをひかずにというわけにはいかなかった時代である。そういうことを積み重ねながら(?)、店でかかってるレコードをしばらく聞き込んだりしつつ、少しでも良いものを探していったものだ(決していばれることではないが...)。
 最も聴きたかったものは75年以降、アルバムでいうと「フィジカル・グラフィティ」以降の音源。とりわけ最高傑作「プレゼンス」に収録された一曲目「アキレス最後の戦い」のライヴは絶対聴いてみたいと思っていた。ふと手にした一枚、「BADGE HOLDERS ONLY PartII」と題された盤の最後にそれは収録されていた。本当はこのときの本命は、ネブワース公演のものだったのだが、手持ちの金額では買えなくて、しかたなくその「BADGE HOLDERS ONLY PartII」にした。それは真っ白なジャケットに、ロバート・プラントがマイクを握っている白黒の薄っぺらいシートが一枚挟まれたチープなものであった。PartIもあったが、金額的にそこまでは無理なので見送ることに(結局PartIはその後も購入できなかった)。2枚組みでありながら、演奏曲は少なくまさに「アキレス最後の戦い」のみに賭けたといってもいいぐらいであった。これでコケたらかなりショックであったことだろう。
実はこのときの公演はLA Forum 6/23/77で、この週の演奏はマニアの間ではベストテイクとの噂もあるほどの名演の一つ。このときは何日目だかは忘れたが、別の日の「Listen to this Eddie」(Eddieはあのエディ・ヴァンヘイレンを指している)と題されたものがよく知られたところである。さらに特筆すべきは音質がとても良いこと(つくづく公式リリースされていたらなぁと思うが...)。
 その「BADGE HOLDERS Only PartII」は2枚組のレコードで、A面全てとB面の途中までたっぷりつかった「ノー・クォーター」の演奏は、公式ライヴ音源「永遠の詩」のそれをはるかに凌駕していた。続く「黒い田舎の女」の演奏も素晴らしい。ペイジのギターも安定しているどころかメチャメチャ良く(酷いときはめちゃくちゃ酷いものです)、何よりもボンゾのドラムの迫力がものすごい。また、このときはフーのキース・ムーンとボンゾとのツイン・ドラムによる「モビー・ディック」も目玉であった。たっぷりレコードの片面を使っていた。そして、ペイジの長いギターソロをへて、「アキレス最後の戦い」へと突入。スタジオワークでは、オーバーダブされたギターが重なりあっていたが、ライヴではそうはいかないのでどうなるのかなとおもってはいたのだが...しょっぱなのペイジのギターのイントロの静かな立ち上がりから、一転してボンゾのパワー溢れるドラムが加わり一発でノックアウトされた。すさまじい勢いで音がせまってくる。感じやすい年頃の私はものすごい高揚感を味わっていたが、演奏終盤あたりで海賊盤の罠が待ち受けていた。いきなり演奏が切れた。そしてわけわからないナレーションとともにあっけなく終わった(だけども大満足)。その後「Listen to this Eddie」入手後、ちゃんとした状態のを聞くことが出来たが、「BADGE HOLDERS Only PartI」にも収録されていたであろう、「シック・アゲイン」、「ホワイト・サマー」〜「カシミール」、「俺の罪」、「丘のむこうに」といったライヴ・テイクの素晴らしさに再度興奮しまくったものである。

 年は流れ、ツェッペリン熱もだいぶ落ち着き、中学〜高校の時のように毎日毎日ツェッペリンばかり聴くということもなくなっていった。ある周期で、キング・クリムゾンにハマったり、トッド・ラングレンばかり聴く日々。そして何ヶ月かに一度はやっぱりツェッペリンを聴きまくるということを繰り返す。そして「BBCライヴ」の公式発表。今から6年前。「CODA」ってたしか81年とかそのあたりにリリースされているわけだから、この間16年ぐらいの開きがある。その間ジミーさんは何してたかというと、ロニーレーンのARMSコンサートで演奏したり、ライヴ・エイドに出たり(このときは結構興奮しました)、なぜかポール・ロジャースとTHE FIRMなんてバンドつくっちゃったり(2枚作っただけで解散しちゃったけど)、ソロを数枚だしたり...いつだったかボンゾの息子のジェイソン・ボーナムを加えてライヴしたことがあったけど、あれは良かったかな。しかしなんだかツェッペリン以降ぱっとしない状況が続いたわけで、もう格好良いジミー・ペイジを見ることはできないだろうと、すっかり過去の人になってしまった(ロバート・プラントは対照的に格好よいが)。
 「BBCライヴ」を聴いて思ったのは、ペイジはなんだかんだいってもやはり格好良いということだった。なんせ「CODA」でお終いとおもっていただけに、こうしてちゃんとしたツェッペリンのライヴ、そしてペイジの演奏が聴けるのはうれしかった。その後も未発表のライヴリリースがあるのではなんて囁かれたものだが、結局それっきりだったわけである。途中BOXセット発売や、未発表スタジオテイク数曲がリリースされたのはよかったが、やはり期待したのはライヴ音源であろう。
 そうこうしてまた忘れ去られたであろうころに、今回のDVDおよびCDでのリリースである。人間生きてていいなぁと思うときがあるというが、これはまさにそうなのかもしれない。しかも今回の目玉は、なんといっても映像に尽きる。DVDでは2枚組のたっぷり5時間20分ものである。各時代の名演とされるものがピックアップして収録されている。なにより音質の良さと映像のクリアーな点はがうれしい(なんて思う人は一部だろうけど)。結局私自身聴くことができなかった、ネブワース公演も収録されており、最大の目玉ともいえるだろう。未だ海賊盤で聴いたことが無い人にとっては、「カシミール」や「トランプルド・アンダーフット」、「アキレス最後の戦い」等の後期ツェッペリンのライヴテイクにはやたら期待感が高まっているはず。今の時期に秋葉原に出かけると、石丸電気等の大型店の店先の大きなディスプレイから、そのDVDの映像が流れており、道行く人が立ち止まって熱心に見入ってる光景に出くわす。私は買ってからゆっくり楽しもうと思ってはいるが、誘惑には勝てずについ見てしまうのである。ロバート・プラントの熱唱、ジミー・ペイジのパフォーマンスアクト、いつも淡々としてクールなジョン・ポール・ジョーンズ、ボンゾの激しいドラミングが映し出されると高揚感が高まってくる。
 そしてCD売り場に行けば、ライヴCDのほうがかかっている。特設コーナーを見ると、紙ジャケ再発とともに輸入盤が陳列されている(なんかオリコンTOP100位に再発7枚がランクインしたらしい)。国内盤DVDとCDは6/11に同時リリースなのだが、「カリフォルニア」を聴いた瞬間に我慢できなくなってCDは輸入盤を購入した。
 さっそく聴いてみた第一印象は、「うヒャッ、音がいいなぁ」(笑)。もちろん演奏自体も素晴らしい。72年と言えばノリにノッていた時期でもある。どの演奏もエナジーを感じる(当たり前)。ジミー・ペイジ様々である。個人的にはCD2枚目の「幻惑されて」の中で「クランジ」が演奏されていたのは、かなりの収穫だった。文句なしである。そしていよいよ6月11日DVDの発売(CDもですね)。しかも5.1ch対応である。久々にアンプのボリュームを上げて苦情をいわれることになるのか、悩むところである(苦笑)。