ペナン・ラクサを求めて

 マレーシアの料理で、有名かつ代表的なものの一つに、ラクサ(Laksa)という麺料理がある。ラクサは、ココナッツ・ミルク入りのカレーラーメンのようなカレー・ラクサ(ベタなネーミングだ)と、ペナン発祥のペナン・ラクサ(アッサム・ラクサ)の大きく二つに分類される。 8年前ぐらいになるが、最初にマレーシアに訪れた時に、クアラルン・プールの、とあるホーカーセンター(屋台街)で食べたのが最初。そこで食べたラクサは、今となっては記憶も曖昧で、よく思い出せない。
 それ以後、クアラルンプール以外にもランカウイ島、コタ・キナバルといったところにも訪れたが、ラクサに出会うことはなかった。ラクサはどこにいけば食べれるだろう...
 有名な料理なのに、なぜこうもラクサを食べれるところがないのだろうと思っていたのだが、今思えば訪れた地域にたまたまなかっただけなのかもしれない。
 今はもう無いが、私が勤めている会社の裏に「揚家の台所」というお店があった。元々マレーシアに住んでいた客家(ハッカ)出身の揚(ヨン)さんという人と、マレーシアから出稼ぎに来ている同じく客家出身の友人である李(リー)さんの二人でやっている客家(ハッカ)料理のお店だった。日本には北京、広東、上海、四川といった中国料理の専門店は数多く存在するが、客家料理のお店はかなり珍しい。  お店自体は残念ながら長くは続かなかったが、アジアの匂いが充満したナイスな店だった。客家の料理もうまかったが、マレーシア・カレーのガツンとくる辛さに夢中になって、それもよく食べていたものだ(断っておくが辛さだけを求めて食べていたわけではない)。
 あるとき客家の料理、薄餅(ポピアー)を食べながら、マレーシアには何回か行ってるんだけど、ラクサに出会えないんだよねと揚さんに言ったところ、ラクサ食べたければペナン島いかないとダメヨと言われた。KL(クアラルン・プール)でも探せばやってるところもあるけど、ラクサはやっぱりペナン島ヨ。さらには、マレーシアで美味しいもの食べようと思ったらペナン島ネとも。
 実はペナン島にはこの時点では、行った事がなかった。揚さんの話を聞けば聞くほどにペナン島には興味が湧いた。それまでマレーシアで食事をしても、正直なところ、たいてい2日目を過ぎると飽きてしまっていた。麺料理やライスを使った料理、ナシ・ゴレン等はあっさりしていて、パラッとした米の質感等は見事で美味しいが、魚介類を使った海鮮料理等は、たいてい甘ったるく油濃い味付けのため、飽きがきてしまうほどだった。サティも、鶏肉やマトンの肉自体はさすがだと思ったが、基本的に甘い味付けであったため、そう何本も食べれるものではなかった。食事の大部分は屋台で食べていたが、たいていどこでも似たような感じだった。最後のほうで、本当にマレーシアの料理ってこんなもんかと、本腰を入れて店を探し出したわけだが、そのかいあってか、これならイケるというところもあったので、美味いものはちゃんと探さなければダメだとあらためて悟ったわけだが...ちょっと遅かった。
 そういうこともあってか、ペナン島なら期待に応えてくれるかもしれないと、大いに期待した。そして、今度こそラクサを食べれるのだと。
 ここで、ペナン島のホーカーセンターについて少々。ペナン島で食事といえば、ホーカーセンターに行こうというぐらいで、いたるところに存在する。たいてい19:00ぐらいから営業開始。昼間も営業している屋台もあるが、数はとても少ない。やはり夜がメインだ。いろいろな屋台があり、中華系、マレー、タミルといった実にさまざまな料理を作っている。まずは席を確保したら、自分が食べたいものを注文しに行く。あっとその前に、飲み物の注文を取りにくる人がいるから、そこで飲みたければ何か注文しよう。ちなみにビールはTigerとAnchor、Carlsbargがあるが、いずれも高い。平均して12RMぐらいはするから(なんと日本とほとんど変わらない値段)、ビールばかり飲んでいると、食事の大部分はほとんど飲み代となる。食べたい料理が見つかったら、店主に自分が座ってる席を示して、持ってきてもらう。代金はそのときに支払う。
 ちなみにラクサは、だいたい2RM(2リンギット=60円ぐらい)で食べれる(安いものだ)。ラクサ専門の屋台の看板を見るとASSAM LAKSA(アッサム・ラクサ)と書かれているが、これがペナン・ラクサである。アッサムとはマレー語で酸っぱいという意味だが、この酸っぱいというのはタマリンドを指している。スープは、このタマリンドに、魚(鯖・鰯・鰺等)ダシをトウガラシで味付けして、ハーブをふんだんに使い、酸っぱくて辛いのが特徴。それと緑の葉っぱが入ってるのだが、ラクサ専用のハーブで必要不可欠のものらしい(その他にも数種類のハーブを使用するようだ)。麺は米の白い少々太めの麺。椀に麺を入れ、スープをかけては戻し、それを繰り返すことで麺を柔らかくしてらしい。トッピングは魚やエビ、厚揚といったものが入っている。エスニックバリバリの麺料理、これがペナン・ラクサの特徴である。
 というわけで簡単ではあるが、実際に現地でラクサを食べた感想を以下に。
ラサ・サヤンから一番近いホーカーセンター
 宿泊先のホテルは、ペナン島の一番北側のリゾート地帯に立ち並ぶ、シャングリラ系列のラサ・サヤンというホテルに泊まった。このホーカーセンターは、そこから歩いて3分ぐらいのところにある一番近いホーカーセンター。ガイド・ブックなどでは、ジョージ・タウンやガーニー・ドライブといった有名所をよく紹介しているが、近年では半分観光名所と化してる感があるようだ。地元の人に聞いてみると、年々ホーカーセンターは、いろいろなところに新しく出来ているそうで、このGLOBAL BAYという大きな看板を掲げたホーカーセンターも今年新しくできたらしい。飲み物等を提供している大きなカウンターがあり、隣にはミニ・マーケットもある。中は明るく、雨が降っても大丈夫なように屋根がついており、ちょっと気軽に食事にでかけるにはなかなかよい。
 屋台も、中華、マレー、タミルと様々な料理が食べれる。あとは実際食べてみて美味いかどうかであろう。
GLOBAL BAY
GLOBAL BAY
 ここにラクサ専門の屋台が1件ある。作っているのはマレー人の女性だ。たしか2RM。麺自体は少なく、ハーブ類や蝦、パイナップルといった具がゴロゴロ入っている。いっしょに箸とレンゲを持ってきてくれるが、ほとんどレンゲだけで食べることが多かった。タマリンドの酸味に魚のダシが効いて、なるほどこれがラクサかと無言でスープをすすりながら具をほうばる。スープはよくかき混ぜながら飲んでいるつもりだが、最後のほうになると辛さがじわじわ効いてきて、次第に汗がしたたり落ちてくる。ハーブ類の香りがよく、なんだか体がすっきりするような気分にさせられる。
2番目に美味かった
2番目に美味かった
2番目に美味かった
ペナン・ヒルの近くの中華系ホーカーセンター
 夜にペナン・ヒルの見学に行った帰りに、ガイドをしてくれた王さんにオススメのホーカーセンターにつれていってもらった。距離からして、てっきりガーニー・ドライブに行くのかと思っていたが、ペナン・ヒルからほんのちょっぴり下ったところで車が止まった。
 中華系中心のホーカーセンターで、味のほうはとても良いらしい。麺料理はほとんど全て美味いそうだ。
中華系のホーカーセンター
 ここにもラクサ専門の屋台が1件あった。薄餅(ポピアー)も出していることから(これについては後ほど)、作ってるのは客家の人か。まぁとりあえず注文してみることにする。なんだか眠そうでやる気があまりないような(そのようにみえた)おじさんが出てきた。大丈夫かなぁと思いつつもお願いした。
 料理が来たので、いそいでデジカメで写真をとって食べ始める。社員旅行で来ているので、料理は大抵皆でつつきまくるが、ラクサだけは私一人で独占状態。どうもラクサは、他の人にはあわないらしい。で、肝心の味のほうだが...薄い。酸味のほうもいま一つといったところで、全体的に焦点のはっきりしない、中途半端な印象。麺は少なめでパイナップルは入っていない。具の内容は別にして、味の点で前日のラクサには到底及ばない。いっしょに注文した薄餅のほうもしかりであった。王さんがオススメしていた、ワンタン・ミー等は大変美味かっただけにラクサがハズレだったのは残念だ。
ハズレ
ハズレ
ホリディ・インホテル近くのホーカーセンター
 リゾート沿いにあるホリディ・インホテルの近くにある。一番始めの日に来たホーカーセンターだが、飛行機が遅れたために、食事の時間も21:00ぐらいと大変遅めだった。ラクサの屋台はあったものの、残念ながら既に終了していて、お預けをくらったところである。今回は地元の人達も結構来ていて、席はほとんど満席状態...といいつつ写真はほとんど人が居ないが、これは初日に撮影したもの。ちゃんと写真をとっておけばよかったと少々後悔。
ここも粒そろい
 今日は営業していた。店員は華人の女性。薄餅(ポピアー)もやってることから、この人も客家の人かな。さっそく注文だ。とにかくホーカーセンターに行ったらまっさきにラクサを注文。そして一人で食べる。これで3店目だが、見た目はどこも似たりよったり。どちらかというと、最初に食べた店のものに近い。お約束のパイナップルも入ってたし。ここのラクサは、酸味や辛み、ハーブの香りが大変強くはっきりした味だ。また、3店中一番麺の量が多かったので、麺料理らしさが一番感じれたかも。そういったこともあったのか、全体の味のまとまりが、今までの中で一番良かった。辛さも一番だったので、食べ終わるころには汗がダラダラ。しかし爽快な気分。
一番美味かった
一番美味かった
 それぞれ別々の場所にある屋台で食してみたが、店によって麺の量が少なく、どちらかというと具が多いスープ料理のような印象を受けるものもあるが、どれも先に挙げた特徴の通りであった。レンゲに蝦醤のようなドロッとしたペースト状のものがたまっていたりして、これを溶かしてスープをすすると、酸味と魚のダシ、蝦醤やハーブの香りが渾然一体となった、滋味溢れる味わい。食べ終わるころには額から汗がしたたり落ちてくるが、なんとも爽快といった具合。なんとなくタイのトムヤム・スープを連想するが、明らかに異なっている(カノム・チーンのほうがニュアンスは近いらしい)。それから、1店は別として、その他のお店に共通していたトッピングに、パイナップルが入っていたこと。これにより若干だけどもフルーティな味わいがあったような印象を受ける。いずれにせよ、一度食べたら忘れることの出来ないインパクトのある食べ物だ。ペナン島に行ったら是非とも実際に食べてみて欲しい。

 マレーシア料理は、ペナンに行くまではあまり良い印象がなかったので、日本でも専門店からは足が遠のいていた。そんな中で、たった1度だけ東京のマレーシア料理専門の店に料理を食べに行った事がある。しかしこのときラクサはなかった。話を聞くと、ラクサを作るためには、先に挙げたラクサに必要不可欠なハーブが必要とのことで、入手の問題から、いつも出せるというわけではないというのが理由。こういったことはよくあることなので、仕方のないことだが、とにかく本場ペナンでラクサが食べれたので満足である。もっともペナンにはラクサ意外にも美味しいものが多くあるので、それについてはおいおい紹介してくとしよう。