「むだるばん」mudhalvan ~州首相 前編

Tamil / タミル語・タミルナードゥ州の話
女優時代のジャヤラリター。 【Major Chandrakanth】(1966,タミル)の映画ポスターから。 2003年暮、チェンナイの路上で撮影。

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しろうとタミル語講座 第15回 「むだるばん」前編

2009.05up 【メルマガ第25号(2004.2.2発行)を加筆修正】
(※タミルナードゥ州政府サイト、州首相の紹介については、2004年2月当時のものです。
現在州首相は、カルナーニディ氏です。政府サイトの内容もそれに伴い変更がありますが、そのままにしてあります。)

Mudhalvan(Muthalvan)~(州首相)
முதல்வன்

 今回長くなりそうなので、前後編の2回に分けて「州首相」のタミル語について、書いてみます。インドの州首相のことは、ネットで検索してみる限り、日本語ではあまり情報が出回ってないので、あまりよく理解できてはいないのです。が、映画【Mudhalvan】好きの私にはとても気になる単語です。

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 まず、下のリンク先をご覧になってみてください。
 タミルナードゥ州政府のサイトです。

 上記リンク先のページを開くと、3人の画像が出てきます。
 現在のタミルの偉い人の紹介です。左から、

  1.Chief Minister(略して、CMとよく呼ばれる)
  2.Governor
  3.Chief Justice

 が紹介されています。

 日本語に直せば、左から

  1.タミルナードゥ州首相
  2.タミルナードゥ州知事
  3.マドラス高等裁判所裁判長

 …という感じでしょうか。

 1の「州首相」は、選挙を経て州議会で指名されます。
 タミルは、映画と政治が密接に関わっているといわれます。往年の大スター・MGRも、映画界で活躍してこの「州首相(CM)」になったわけです。
 同様にラジニカーントも、将来、この州首相になることを民衆に望まれているんですね。

 2の「州知事」は、インドの中央政府で任命を受け、派遣されてくるお役人です。選挙で選ばれるわけではありません。政治家、というよりは官僚というイメージです。
 現在の州知事である、ティル・P.S. ラーマモーハン・ラーオ氏の紹介ページを読んでみると、アンドラプラデーシュ州で警察官としてのキャリアを積んだ後に、州知事に就任された方のようです。

 州知事と州首相のどちらが偉いか。どっちかというと、中央政府から任命される、州知事の方がステイタスは上のようです。(州首相が辞任する場合は、州知事に辞任届を出すらしい。)
 でも、民衆の投票で選ばれる州首相のほうが、人気はあるような気がしますが…。
 (また、お役人は、赴任先との癒着を避けるためか、違う州や地方の出身者を任命する傾向があるようです。そのため、地元で人気がある方が任命される訳ではないのです。)

 有名なタミル映画で例をあげると、
 1.州首相が出てくる映画
   【Mudhalvan】(アルジュンが若くして州首相になる話)
   【Baba】  (CMの陰謀でラジニカーントは危険にさらされる)
   【Iruvar】(ザ・デュオ) (MGRが俳優から州首相にまでのぼりつめたエピソードに着想を得た映画。モーハンラール主演。)

 2.州知事が出てくる映画
   【Kadhalan】(悪徳州知事とプラブデーヴァが対決)

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 昨年末にチェンナイに行った折、かねてより興味のあった、現タミルナードゥ州首相のジャヤラリターの家を、外観だけですが見てきました。
 ジャヤラリターは元女優&ダンスの名手で、往年の大スター・MGRのヒロイン等を数多く演じました。MGRの愛人だったとも言われており、州首相にまでのぼりつめたMGRの没後、本妻ジャーナキと跡目を争い、最終的に本妻に勝ち、MGRの立ち上げた政党AIADMK(全インド・アンナー・ドラヴィダ進歩連盟)の党首に就任。
 そして、現在は女性でありながら、MGRと同様に州首相になりました。

女優時代のジャヤラリター。 【Major Chandrakanth】(1966,タミル)の映画ポスターから。 2003年暮、チェンナイの路上で撮影。

女優時代のジャヤラリター。
【Major Chandrakanth】(1966,タミル)の映画ポスターから。
2003年暮、チェンナイの路上で撮影。

 賄賂、公費の使いこみなどの汚職疑惑が絶えず、近年には前首相カルナーニディや自分の批判者を強引に牢屋に送り込んだり、強硬な政策を進め、(特に高位カーストの人たちには)批判されがちなお方です。
 それでも、弱者に優しい政治を目指していたという、MGRへの信奉者は今でも多く、後継者(恐らくは、下位カーストの庶民を中心に)ジャヤラリターも絶大な支持を受けています。

 このごろは、チェンナイの町をキレイにしよう!という政策を積極的(強制的?)に進め、その結果、壁に貼られていた映画ポスターは激減しました。
 それはさみしいのですが、路上にゴミ箱が徐々に設置され、ゴミだらけだったチェンナイが歩きやすくなってきたのも事実。

 私自身は、ファンという訳ではないけれど、アルゼンチンの元大統領夫人で有名なエヴィータと同様、こういうキナ臭いけど庶民に絶大な支持を受けてる女性の生き様には、興味があります(笑)。

 (※’09追記↑の執筆時はまだ映画を未見だったのですが、2009年現在、何本かのMGRとの共演作等を拝見し、彼女の演技や踊り、かなりスキです♪)

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 実は、彼女の家は、ラジニカーント邸から歩いて5分と離れていない所にあるのです。
 ラジニはかつてジャヤラリターに反目したこともあるわけですが、そんな仲の悪い?両人がご近所同士というのも不思議なご縁。

 現地の人によく、「ラジニの家に行った?じゃ、ジャヤラリターの家も行った?」と言われたので、今回行ってみたのです。

 ラジニ邸の100Mほど手前のところで、検問のように警備員が3人前後、常駐してるのですが、「ラジニ邸を見たいんだけど」といえば、「こっちだよ!」と大抵は道案内をしてくれるのです。
 今まで私は、彼らをラジニ邸の警備員だと思っていたのですが…。

 その日、ラジニ邸を見た後に、その検問所に戻って、「ジャヤラリターさんの家も見たいんですけどどこですか?」と聞いたら、ラジニ邸のときと警備員たちの雰囲気がガラっとかわりました。

 警備員「何故行きたいんだい?」
 むんむんたち
    「ここまで来たので州首相の家も見てみたいです」
 警備員「日本人でもこんなところに興味があるのかい?」
 むんむんたち
    「だって、かつての有名な女優さんじゃないですか?
     私たちはタミル映画の大ファンなので、MGRもアンマー(ジャヤラリターの愛称)も興味あります!」
 警備員「そうかそうか!ちょっと待っててな。」

 どうやら彼らは、ラジニ邸ではなく、ジャヤラリター邸の警備員さんだったのでした。

 無線で連絡をとって、5分ほど待つと、アンマーの家の前で待機しているSPの人が迎えに来ました。
 かばんの中身チェックをされ、「写真は撮っちゃダメですよ」と釘をさされ、ちょっと重々しい雰囲気の中、SPに付き添われてしばらく歩きました。

 すると、軍のジープ?と思しき仰々しい車が路上に増え、ライフルを持ってそうな風貌の人が路上に増え…
 JAYA TV(ジャヤラリターが所有するテレビ局)ビルの前を通過したところで、また荷物チェックを受けました。
 そして、道路を隔てて10Mほど離れた門を指差し、
「あれがC.M.の家。ここから見てね」
 がっちりした大きな門の向こうに、瀟洒な建物が見えました。
 
 「州首相」の家を見る、というのは、こういうことなのね。
 テロなどの標的にされる可能性大、の要人だ、ということを実感。
 エライところに来てしまった!

 しかし、SPの人たちは、私たちを監視しながらも、「よく日本からインドのこの州の首相にまで、関心を持ってくれたね」というように、笑顔で接してくれました。
 この家は、ジャヤラリター自身はチェンナイ出身ではない(カルナータカ州マイソール)ものの、彼女の母たちが古くから住んでいた場所なのだそうです。

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 帰り道、私たちは興奮気味。
 今、ラジニ邸は建物前で記念撮影するとか、門前まで訪問するだけならば比較的簡単。
 でもいつか、彼が州首相になった暁には、今日のジャヤラリター邸のように、近寄れなくなっちゃうんだろうな。
 手の届かない所に行ってしまうような…。そうなると、ちょっとさみしい。

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 さて、もし、TAMLKambanのフォントをダウンロードされている方は、
政府サイトのタミル語版もご覧になってみてください。
 メニューバーにある単語で、今まででてきた役職の英語に対応するタミル語は以下です;

 1.Aalunar (ஆளுநர்)  → Governor
 2.Mudhalvar (முதல்வர்)  → CM
(※注:2003年当時は政府サイトのタミル版で「Mudhalvar」と記載されていましたが、
  2009年現在、[முதலமைச்சர் mudhalamaichar]という呼び方で記載されているようです。)
 3.Thalaimai Neethibathi (தலைமை நீதிபதி)  → Chief Justice
 
 となっています。2.の「Mudhalvar(むだるばる)」が、州首相のことです。

 え、今回のお題の「むだるばん(Mudhalvan)」と最後の1文字が違うじゃないかって?

 気がついた方、その視点、ナイス!

 シャンカル監督が1999年に放った大傑作、【Mudhalvan】(アルジュン、マニーシャー・コイララー、ラグヴァラン出演)は、何故【Mudhalvar】ではないのか?

 それは、次回へ続くのであります。ちゃんちゃん。

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