Asuran (Tamil,2019)

Asuran (Tamil,2019)
Asuran DVDジャケット

タミルのティルネルヴェーリ近郊の村で起こった、アウトカーストのダリットである農民の親子と、地主(や地主の暴力をスルーする警察たち)の血みどろの闘争と逃走、家族の絆を描いた映画。ダヌシュ、ヴェトリマーラン監督とタッグの4作目。

ダヌシュの映画はハッピーな映画と悲惨な映画(ダヌシュファンのみなさんの間では「焼野原系」と言われたりしている)の落差が激しすぎて、観たいんだけど観る前に緊張します。
血液色な色調のDVDジャケットイメージにもう腰が引けちゃって。
ヴェトリマーラン監督ものとなると、まあ、ハッピーというよりは悲惨な映画系である確率が高い、と感じるし、メンタルが割と強い日に観たほうがいいかなと、私の場合は身構えます。

救いがない系、焼野原系、重いテーマ系は、年々苦手になっているので。私の場合。(東日本大震災のあった2011年以降、その傾向が強いかな。)
悲惨な現実から目を反らす、というのではないんですが。
でもハッピーになる映画の方をより多く観たいし、重い映画を観るとしてもこんな現実でも何かを諦めていない一筋でも希望のある映画を観たいです。

やっと今日なら見る気力がある!と思った連休中の日の朝、見始めました。(きつくなったら、2~3日に分けて見る心づもりで) 
でも、休憩はいれたけどほぼ一気に観ました。
重いけど、悲惨だけど、希望は見えました。
ダヌシュの強い瞳の中に。微かに微笑んだ口元に。

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ダヌシュの信頼できる兄貴分(奥さまのお兄さん役)が、パシュパティだったから、気分上がったよ!パシュパティいいよね、パシュパティ! 2005年ヴィジャイの【Thirupaachi】の悪役で観て以来、パシュパティが出てると萌えるポイントがあるので安心。どんなにダヌシュが映画で不幸になっても、パシュパティが支えてくれれば… 中盤くらいまで、そんな感じで観てました。

監督がVada Chennaiと同じヴェトリマーラン、ということで、悲惨系を強く想像して構えて見ていたので、心構えができていたのか思っていたよりもキツくはなかったかな。でも悲惨だな、こんなんじゃ絶対地方の村には住みたくない、ブルブル、という感じ。前情報なしに観たので、当初、現代の話かと混同してましたが(だって、現代でもインドの地方の村なら、十分ありえそうな…)、携帯電話とか全く出てこないし、映画館で観ている映画が若き日のカマルハーサン主演ものだし、どうやら1980年代頃のお話か。
でもね、80年代って言ったって、マイケル・ジャクソンのエンタテイメント時代全盛な【スリラー】が出たのが1982年よ。ポール・マッカートニーが黒人と白人との調和を願って【エボニー&アイボリー】をスティーヴィー・ワンダーと歌ってたのも同じ年。世界的にはそんなエンターテイメントが流行っていた時代に、インドの田舎では地権者とダリットの農民たちが血みどろになっているんですか。

サタジット・レイ監督が晩年の1980年代に発表した【遠い道】も、寺院の僧侶がアウトカーストの農民を労働でいじめ殺す話で、観た時に大ショックを受けてしまったものでしたが、うおー勘弁してくださいよ、もう。

でも最後まで、ちゃんと観たんですよ。で、何でこんな2019年に1980年頃の悲惨な話をヴェトリマーラン監督は描いたのか、逆に気になってきて。
観終わって情報を検索してみたら、そしたら、1982年に出版された小説が原作だったんですね。

しかも、この原作以外にも下敷きにした実際の出来事として、1968年12月25日に起きた「Kilvenmani massacre」という事件があるそうです。

タミルのキールヴェンマニという村でクリスマスの日に、44人のダリットが生きたまま焼かれて死んだ。そこには数百人のダリット農民が住んでいて、地主に賃金の上昇を求めていて、激怒した地主が手下に襲わせた。集落を取り囲んで火をつけ、逃げ出そうとした農民も捕まえては火の中に放り込み… 死者には25人の女性、14人の子どもも含まれていた。
地主ゴーパーラクリシュナン・ナーイドゥはナガパッティナム地方裁判所で10年の禁固刑を求刑されたが、マドラス高等裁判所に控訴。証拠不十分として1975年に釈放された。
だが、そのままでは済ませないと、アマルラージ率いるグループがゴーパーラクリシュナンを1980年に殺害。
そしてアマルラージも証拠不十分として無罪になったとのこと。
アマルラージは2019年2月に逝去。
The New Indian Express 2019.10.8記事より

上記出来事を気に留めて、Asuranを観たら、今このテーマの映画を公開したかった、というのは分かる気もします。

வெக்கை (Vekkai) (Modern Tamil Classic Novel) (Tamil Edition)
原作は、プーマニの【Vekkai】(英訳:Heat)。(日本のamazonのkindleで購入可能。ただし、タミル語)
15歳のチダンバラムの目を通して展開する、権力への抵抗の話らしい。
地方の問題というのは、なかなか新聞やメディアで取り上げてもらえないし、そういった世間の無関心への怒りみたいな映画が、時々作られているわけですが、Asuranもそういった面があるんでしょうか。

ヴェトリマーランの映画版では、軸をチダンバラムの父(ダヌシュ)にあてている。
で、ダヌシュ。
ものすごい。
DVDのジャケットのダヌシュだけでも、迫力があって見るのに怖気づく位だけど、本編ではもう、ものすごい。この狂気は、アジットやヴィジャイでは出しえない、ダヌシュならではの振り切れ具合かと。
ダヌシュはふだん都会に住んでいる、現代っ子に違いないのに、こういう映画、何を考えて演じているんだろう。【ガラスの仮面】の北島マヤみたいな感じに憑依しちゃってるんだろうか。

Asuranの意味は、おそらくは日本では「阿修羅」と呼ばれる、インドの「熱さを招き大地を干上がらせる太陽神(鬼神)アスラ」。文字通り、修羅場だらけの映画。銃はないけど、鎌や槍その他、物騒な原始的なツールでガンガンいきますよー。
いつもならタミル映画はもっと人が殴られるとクルクル飛んだりするものだが、この映画ではリアリズムに近づけているようなので、デフォルメ加減は弱くて痛々しさアップ。でもダヌシュのアクションが白々しくなくてこれがまたいいんだな。(アクション監督が、ピーター・ヘインじゃないですかっ。)
ダヌシュ初の、100カロール突破作品となる大ヒット。

映画評の中には、「原作とは別物だがヴェトリマーランはこの復讐劇を、ファミリーを映画館に連れてくるよう仕上げた」というのを見かけました。
こ、これが、インドでは、ファミリー・エンタテイメント!?
でも、100カロール突破の大ヒット、っていうのは、そういうことか。

映画全体的には、近年のタミル映画にありがちで気になっている「レイプ」や「麻薬(コカイン)」といったエピソードがこの映画では全く無縁で展開するので、そこはすごくよかった。
あと、いわゆる「感動ポルノ」などとは絶対言われないだろうな、という感じ。

復讐的要素もあるんだけど、大部分は自己防衛。そしてこの負の連鎖から抜け出すには、「学」が必要だと、主人公は信じている。
その信念を息子に伝えるシーンがとてもよかった。
プラカーシュラージはダヌシュを助ける弁護士役。ダヌシュをいじめる役じゃなくてよかった。彼までダヌシュを痛めつけたら、救われないよ、ホント。

この暗い話を今映画化したかった理由をもっと納得したいので、また見直したいし、機会があれば原作も読んでみたいです。(日本語訳は…ないのかな。)

この次に出たダヌシュ映画が、スカっとする【Pattas】。この前に出たのもマサラな【Maari 2】や楽しい【クローゼットに閉じ込められた僕の奇想天外な旅】。
重い映画に出たら、また重い映画に出る前にはハッピー系を挟んだりしているんでしょうか、ダヌシュも意識的に。

とにかくダヌシュ、すごかった。

(あと、パシュパティもよかった。)

作品情報

2019年10月3日公開(タミル映画)
監督:ヴェトリマーラン
音楽:G.V.プラカーシュクマール
出演:ダヌシュ、プラカーシュラージ、パシュパティ

【英語クレジット】
Cast : Dhanush, Manju Warrier, Abhirami, Ken Karunas, Teejay Arunasalam, Prakash Raj, Pasupathy, Aadukalam Naren, Balaji Sakthivel, Subramania Siva, Pawan.

Directed by : Vetri Maaran
Music : G. V. Prakash Kumar
Cinematography : R Velraj
Written by : Poomani (Author of ‘Vekkai’)
Editing : R Ramar
Art Director : Jacki
Stunt Choreography : Peter Hein
Costume Designer : Perumal Selvam
Stills : Robert
PRO : Riyaz K Ahmed
Designs : Sasi & Sasi
AP Paalpandi, T Udhayakumar and V Shanmugam
Produced by : Kalaippuli S Thanu
Banner : V Creations

あらすじや他の視点からの感想などは、エルザさんのブログが詳しいのでぜひ!

(2020年7月23日、Ultra RecordsのDVDで初鑑賞。機械翻訳の日本語字幕にて)

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