ヴィジャイ 14年前(32歳)の雑誌インタビューを読み返して~Box Office 2007年7月号

Celebrity / インド映画界の人々の話
Box Office 2007 07cover

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2021年6月22日、ヴィジャイの47歳(1974年生まれ)の誕生日まであと1週間とちょっとにまで、迫ってきました。

ヴィジャイが47歳になったころ、彼はどうなっているだろう?…と10年位前から「47歳」に私は割とこだわって気にしてきた。

「47歳」、【ムトゥ踊るマハラジャ】が日本で公開された年(1998年)、ラジニカーントが47歳だったことがきっかけ。
ムトゥを日本に紹介した江戸木純さんのご尽力で、ラジニは【ムトゥ】日本公開に寄せて、いくつもの日本媒体向けのインタビューに応じていて、その47歳のラジニの言葉が;

「もうスターには飽きててね。徐々に引退したいんだよ」

せっかくラジニに真っ逆さまに恋に落ちたのに、50手前で本人は仙人のようになってて、引退したいという気持ちを【ムトゥ】の宣伝インタビューで語っているんですよ?
好きになった途端に引退かよ!やめてー

これを書いている2021年、ラジニが俳優への意欲を取り戻していて、次作【Annaatthe】にもコロナ情勢の最中でも尽力しているのは嬉しい限り。
しかし、1998年のラジニの引退願望発言には本当にびっくりした。
45歳前後で、スーパースターとして大御所になっている人の重厚感や苦悩について、時折考えてみるようにもなった。

日本で報じられることはあまりなかったけれど、ラジニがムトゥに至る前に、映画スターでいるストレスで精神のバランスを崩し、ドラッグに溺れてしまった時期もあったというのはインドの人々には当然とされている事実。
その上チェーンスモーカーだし、大酒飲みでもあるのに、聖人のように時に崇め奉られることに対してもストレスフルになって、ラジニが51歳の時に制作したのが【Baba】(2002年)。 これがヒットしたら引退しようかな、なんてことをまた語っていたからか、フロップ作の烙印を押される興行結果になり、ラジニが引退しなかったことはよかったですが。


10年位前に、ヴィジャイが47歳になった頃はどうなんだろう?と思い始めたのも、ラジニの引退願望の言葉があったから。
ヴィジャイは、ずっとワーカホリックのように映画に出演しているけれども。ライバルのアジットは映画に出てない年もあるけども。
ラジニの後の世代で、ラジニのような大スターの道を歩き出しているヴィジャイは大丈夫なのかな、心が折れちゃったりしないかな、とつい案じてしまうのはわたしとしては仕方ない;

ヴィジャイの10年前というのは2011年。2011年6月の時点でいうと、ヴィジャイの最新作は【Kaavalan】。その前作は【Suraa】(2010年)。
【Kaavalan】はマラヤーラム映画調で比較的好評だったけれど【Suraa】の頃はインドの批評家たちにコテンパンにされていて、「(ワンパターンなアクションものばかりで)もう彼の演技を必要とする者はいない。(そろそろ俳優は引退すれば?)」というような酷いことを書く人もいたのを目の当たりにし、いちヴィジャイファンとしては胸を痛くしていたものだった。

最近ヴィジャイファンになった人にはピンと来ないかもしれないけれど、【Suraa】の頃、世間のヴィジャイへの風当たりは本当に、かなりひどかったのだ。
ヴィジャイ自身も後から振り返ってみれば、たぶん自分のキャリアの在り方について、その頃はスランプだったと思っていると推測する。

10年前の当時がスランプだったこともあるし、ヴィジャイが47歳になる頃、ヴィジャイはまだラジニのような大御所感はないかな?、なーんて思ってた。(それならそれで、ラジニのような引退願望を口にする可能性も低いか、とお気楽に思っていた部分もある)
ところが、その2011年秋の【Velayudham】から快進撃が始まり、2012年1月【Nanban】ではアクションほとんど封印でも大ヒット、その後も毎年毎年、ヴィジャイのターニングポイントでは?と思うような作品が続く。
そして2017年の【Mersal】が、イギリスの国際映画祭2つでも受賞しちゃうような快挙もあって国際的にも大躍進があって、「イライヤダラパティ」(若大将)と名乗るのをやめて「タラパティ」(大将)という冠にしたのとシンクロするように、この3年位で本当に大御所になっちゃった感じがする。

そして、近所の親しみやすいあんちゃん(Vijay annaとも呼ばれてたしね)だったヴィジャイが、とっても遠くに行っちゃった…気もする。

さておき、ヴィジャイがもうすぐ47歳になるよ。 時にはちゃんと休んで心身健やかで、あんまり背負いすぎずに、プライベートが幸せなのが大前提で、生涯現役で俳優を続けてほしいなと心から願っています。


大変長い前置きになりました。
が、そんなことを振り返りつつ、資料整理がてら久しぶりにヴィジャイの14年前の雑誌のインタビューを読んでみたのだ。
10年前よりさらに4年前、【Azhagiya Thamizh Magan】が秋に公開された2007年6月初旬発売の雑誌で。(マレーシアにラジニ【ボス その男シヴァージ】を観に行った時に見つけて購入したと思う。)
33歳になる直前に受けたインタビューだと思われる。
この頃のヴィジャイはこの年のはじめに【Pokkiri】が特大ヒットをかましたものの、「アクションものに偏っている」「テルグ映画のリメイクばかりやっている」といった批判を受け始めた時期。

“I am matchless.” Vijay interview 2007

I am matchless.“ (僕は無双だ)

シャイで控えめな彼にしては、大胆な見出し!?
でもこの本文中で、彼の発言の趣旨は俺がスーパースターだ!というのではなく、「ワンアンドオンリーなラジニ、同じくオンリーワンなカマルがいる。自分も唯一無二なヴィジャイになりたいと思っている。自分のライバルは自分。」(ラジニの次のスーパースターになりたい、ってことじゃない)ということ。

(アジットとヴィジャイ、どっちがラジニの跡を継ぐ?どっちがラジニを超える?的な取り上げられ方が多かったし、それぞれのファン同士でもライバル視するあまりぶつかり合いがち、時にはラジニファンにも攻撃されたりもしていたから、ヴィジャイはそういうのは避ける発言をしているんだとも思う。)

ヴィジャイ、この時期の頃は、映画の宣伝のためにか、結構いろんな媒体のインタビューを受けている。この雑誌でも割と長文。(インタビュー本分はA4で3ページ)
でも、どこの媒体のインタビューも当時読んだときは似たり寄ったりで、ヴィジャイもそんなに面白いことを言ってないなあという印象だった。

今読み返してみると、面白くないというのは、インタビュアー側にも力量がなかったというか、同じような質問ばかりしてて、ヴィジャイが態度を硬化させていたんじゃないだろうか。なんだかヴィジャイがソフトな対応しながらも心を頑なにして、うまく言葉にできなくて弱気ともいえる発言もポロっとしちゃっている様子を想像してしまう。
(ポール・マッカートニーやリンゴ・スターのインタビューや伝記本でも、インタビュアーによって素晴らしい発言を引き出してるな!って爽快な気分になったり、無味乾燥な単なる販促記事だなと思ったりするものね。つい先日、フランス大会を棄権した大坂なおみ選手の記者会見問題も然り。)
「アクションものに偏っている」「テルグ映画のリメイクばかりやっている」というのを本人にぶつけるような質問のときは特に。

「別の映画もやりたいと思っているけど、アクションなしの僕の映画を観客は望んでいるかな?」

という、ちょっと自信なさげな回答をしている。

(↑ こうヴィジャイが言ったなら、「そんなことないですよ」と言って話を続ければ広がりがあっていいのになあ。
ここでインタビュアーが黙っちゃったら、「そうですね、望んでないし期待してませんね」と暗に認めてるようにも見えるよ? それじゃあ続かないよね。)

他にも「共演した女優で誰が好きですか?」系の時。
ヴィジャイはだいたいいつも、「共演した女優は誰でもリスペクトしていてこの人が好き、という優劣はない」という前提で答えを返している。
特定の人を出すと影響が大きいことを危惧していたのかもしれない。
ただ、この記事を読むと、
2007年当時のヴィジャイは新作制作時にヒロインを自分で指定はしていない(自分のエゴを通すのではなく、監督やプロデューサーの勧めに従う)、というのが分かるのはよかった。
それが結果的にワンパターンになりがちだったのは否めないけれど、ヴィジャイ自身は女優を(自分の映画を盛り立てるお飾りの)消耗品のように捉えてないように見受けられるというか。

”Q:What do you wish to achive in the days to come, say in 10 years time?”

What do you wish to achive in the days to come, say in 10 years time? (今後10年で達成したいことは何ですか)

世間の好みやトレンドは日々変わっていくと思うけれど、僕はタミル映画界でしっかりやっていきたい。
その時その時「今」「ここで」自分ができることに集中して、結果を出していきたい。

要約すると割と優等生的で、差しさわりのない答え。たぶん今のヴィジャイだったら、もっとふみこんだことを考えて発言するんじゃなかろうか。

個人的にこの雑誌のインタビューで一番興味ぶかい発言は自分のデビュー当初の頃の回想。

スター一家に生まれたことで、映画業界を目指したというのはあるか?との問いに;

映画以外への道は考えたこともなかった。
でも18でデビューして、薔薇が敷き詰められたような道ではなかったよ。(=茨の道)
ある時はプロダクションのアシスタントにニヤニヤされて「君はネズミみたいな顔だな」と言われた。それは明らかに僕の顔の特徴についてのことで、ひどく傷ついた。でも平静を装った。
歯を食いしばって、「この世界で俺は生きていくんだ」って自分に言い聞かせてね。

そのアシスタントは、今どうしてるんでしょね。

ヴィジャイがよくファンに向けて発していた格言「Ignore NEGATIVITY.」(ネガティブなものは無視せよ)は若手の時から何十年もかけて培われたものなんだなと分かる気がする。


近年は、オーディオローンチだのの式典以外では、雑誌やテキスト媒体で取材を受けることがほとんど無くなってきたヴィジャイ。

twitterも2014年頃の一時は本人が登場してたものの、近頃はスタッフが宣伝ツイートしてるだけが多いようだし、本人がかかわったと思しきツイートが一番最近でコレ(2020年8月11日)。↓

大御所中の大御所になりつつある今、SNSとの付き合いはこのくらいでも十分かもしれない。

日本だって田村正和みたいに、インタビューにほとんど応じなかった生涯大スター、って人もいる。
ラジニもアジットも滅多にインタビューに応じないし、ヴィジャイも無理しなくてもいいのかなとも思う。とはいえ、彼がどのように今の彼になったのか、彼の言葉で知りたいとも思う。
ヴィジャイの経歴を理解しリスペクトをもって対話する聴き手が現れて、ヴィジャイの現在の、「当たり障りのない」じゃない、心からの言葉を引き出したインタビューが読めたりするといいな。

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