Manto (マントー) |ナンディタ・ダース来日登壇

Manto Celebrity / インド映画界の人々の話

7月7日、東京外国語大学で開催の、【マントー】上映会に行ってきました! 今をときめく、ナワーズッディーン・シッディーキー主演、インドとパキスタンが分離した前後の混乱した時代を生きて「猥褻」と次々と物議を醸した小説を発表し続けたマントーを描いた映画です。 監督のナンディタ・ダースが来日して、外大の 萬宮健策先生の通訳付き、 外大の萩田博先生 の丁寧な解説書つき 、外大出身・藤井美佳さんの格調高い日本語字幕付き、それで無料!の何とも至れり尽くせりな上映会でした。尽力された関係者の皆様に、まずは深く感謝いたします。

マントー 予告編

クレジット

2018年/インド=フランス/カラー/114分/ヒンディー語・ウルドゥー語/日本語・英語字幕つき/原題:Manto

Movie Cast

Saadat Hasan Manto – Nawazuddin Siddiqui Safia – Rasika Dugal Shyam – Tahir Raj Bhasin Abid Ali Abid – Javed Akhtar Ahmed Nadeem Qasmi – Chandan Roy Sanyal Bishan Singh (Sikh Man) – Vinod Nagpal Film Producer – Rishi Kapoor Hamid – Inammulhaq Ishar Singh – Ranvir Shorey Ismat Chughtai – Rajshri Deshpande Jaddan bai – Ila Arun Kulwant Kaur – Divya Dutta Pimp – Paresh Rawal Prostitute – Tillotama Shome Shaad Amritsari – Shashank Arora Sirajuddin – Gurdas Maan Arshad Zaidi- Danish Hussain Tea Stall Man – Neeraj Kabi Ansar Shabnam Dil – Vijay Varma

Crew

Producer –HP Studios, Viacom18 Motion Pictures, FilmStoc, & Nandita Das Initiatives Co-Producer –En Compagnie Des Lamas; Magic If Films Associate Producers – Sameer Dixit, Jatish Varma & Nirang Desai Director – Nandita Das Writer – Nandita Das Executive Producer – Sanjeev Kumar Nair Director of Photography – Kartik Vijay Editor – Sreekar Prasad Sound Designer – Resul Pookutty Background Score – Zakir Hussain Music – Sneha Khanwalkar Production Designer – Rita Ghosh Casting Director – Honey Trehan Costume Designer – Sheetal Iqbal Sharma Hair and Make-up – Shrikant Desai Script Consultant – Mir Ali Hussain, Saadia Toor On Location Sound Mixer – Abhishek Tripathy Line Producer – Nishith Dadhich; Prashanth Kumar 1st AD – Purnendu C. Paanda 2nd AD – Hitesh Singhal; Jashvender Chauhan VFX – Prana Studios D.I Prime Studios Visual Promotions Warriors Touch Creative Producer – Nirang Desai Director’s Assistant – Riya Agarwal; Shraddha Khanna Still Photography & Making Of – Aditya Varma Continuity Supervisor – Tara Bhatnagar Camera Assistant – Tarun Kumar Rakeshiya; Ramakrishna Bellam Focus Puller – Akbar Ali Shaikh Assistant Editor – Tejeshwar Dhillon Consulting Editor – Marion Monnier VFX Supervisor – Sunil Kamath VFX Producer – Hemal Damani VFX Executive Producer – Anish Mulani Costume Assistant – Varsha Harlalka; Ketaki Rane

あらすじ

1946年。インドはイギリスからの分離独立へと向かう動乱期にあった。人気作家マントー(ナワーズッディーン・シッディーキー)は、戯曲の才能にも優れ、ボンベイを拠点に活躍していた。多くの友人に囲まれ、妻サフィア(ラシカー・ドゥッガル)は よき理解者として夫を支え続けた。一九四七年八月インド・パキスタンが分離独立すると、国内外で宗教対立が激化。マントーは、インドのボンベイからパキス タンのラホールへ移住を迫られる。この頃、作家としての危機を迎えつつあった。性をありのままに描く作風は検閲の対象となり、長期に及ぶ裁判に苦しめられ る。言論と表現の自由に対するマントーの声明は、自信と確信に満ち、揺るぎないものであったが、やがて酒に耽溺するようになり、生活は荒廃していった―。

東京外国語大学の紹介文より

上映会にて

質疑応答備忘録

  • 映画の中で小説の引用映像がところどころで挿し込まれていたこと:その人の人生を理解しないと、その人の小説を理解できないと思うから入れた。
  • マントー作品の読者層:マントーはパキスタン独立前に3回、分離後にパキスタンで3回提訴されているが、結局すべて無罪になっている。部数は不明だが、2012年にパキスタンから称号を授与された後は広く読まれていると思う。また昔の英訳本は翻訳の質があまりよくなかったが、現在はよい訳で出版されている。
  • 裁判所でマントーが部屋の外の女性に気が付いて目で追うシーンの意味:精神的に追い詰められていて、本人も無意識のうちにインド・ムンバイに帰りたいと思っていて、ムンバイ時代の知人と見間違えた、ということを表現した。自分としては重要なシーンだと思っている。
  • この映画を撮る上で難しかったこと:どの小説を入れてどの小説を外すか。資金面。インド国内での上映はボリウッドが非常に人気のため、マントーのようなインディペンデント映画ではなかなか上映してもらえない。ネットフリックスでマントーは配信されていて、それによって見てもらえる機会ができるのもよいと思っているが、小さい映画館でかかるチャンスを損失する懸念もある。今日のような上映会を開催し、会場と対話したりしていく積み重ねをして、もっと多くの人に見てもらえるようにしたい。
  • 女優、そして監督:最初から女優になろうと思ったことはない。学生時代、ソーシャルワークを専攻していた。【Fire】で主演したことで、映画でメッセージを発信できるということに気づいた。映画でメッセージを発信したいが、こちらの考えを押し付けたり、こう感じろと強要したくはない。 監督することで、 現代にも通じるアイデンティティの表現、いろいろな問題を照射していきたい。
  • ナワーズッディン・シッディキーを前作に続いて主演に起用した理由:ストーリーを書いている時点で、マントーとその妻役はこの人たちしかいないと思っていた。2012年頃から【マントー】制作の構想を始め、2013年にはナワーズからも「ぜひやりたい」と快諾をもらっていた。しかしその後、(歌って踊るボリウッドの)【Michael Munna】でナワーズが大スターになってしまい、撮影のスケジュールを調整するのが大変だった。
  • エンディングの歌をなぜその歌にしたか:「語れ、語れ」という詞の部分を強く伝えたかった。言うべきことは、言わなくてはいけない、と。
スピーチ中はとても眼光鋭く、
語りたいことがたくさんあるらしく、淀みなく言葉を紡ぐ
このツイートは質疑応答が一通り終わった後。
柔和な表情に。

感想

マントーの作品を映像化したものを随所に(境目がなく唐突に)挟み込みながら、彼の苦悩と酒に溺れていく人生が進んでいく進行の映画。その引用されている短編がどれもヘビーで、(原作よりも比較的ライトに表現されてはいたようですが)女性として、観ていて苦しいわ~、よく女性監督がこれを映像化できたなあと感心しながら、(でもあまり抑揚のない展開に途中寝落ちしながら)観ていました。

ザーキル・フセインの印象的なBGMなどはあるけれども、基本的にはインドの商業映画的なミュージカルシーンに近いものはなく、ちょっと寂しい。特に、マントー氏は映画会社に勤務していて映画の脚本を書いていた時期もあるし、映画スターが親友だったりもするのだから、少しはあってもいいのになあ、というのが正直な感想。

グル・ダット映画みたいな路線で仕上げてもきっと合っていたんじゃないかな、とも思うんだけれど、この【マントー】という作品では、ナンディタ・ダース監督が「見たままを伝えたい」「分かったつもりになるな」というマントーの信念を監督自身の信念も交えてストレートに出したかったんだろうな、と理解しました。

ナワーズッディーン・シッディーキーのマントーへの役の入りこみ方は文句なし。作家としての繊細さがよく表れていて、ステキでした。そこまで酒に溺れるのはどうなんだ、って位、スクリーンでは飲んでタバコ吸ってばかりいましたが。(そういえば、飲酒はからだに悪い、ってテロップが入ってこなかったな。素材がインド上映用ではないのかな。)

彼の文学が卑猥だったのかは分からないけど、新聞とかに小説を連載していたのだから、(識字率が日本より遥かに低いことを考えると)マントー作品のリアルタイムの読者って、そこそこハイソサエティな人々が多かったのでは? (自分達が生きるのに必死で)娼婦たち側に心を寄り添うことがしにくい読者層だったとか、人気なんだけどひがんで揚げ足をとるうるさい人がいた、ということか?

ただ、男性であるマントーが悲惨な娼婦のこととか描いているけれど、男尊女卑が激しい国において、他の多くの男性と同じように女性を見下すのではなく、人間として温かいまなざしを向けていたんだろうな、ということが映画から感じられて、そこが一番私にとって印象に残りました。印パ分離の動乱時期だからどうこうということを超越して、普遍的なメッセージも持つ、何十年たっても読み継がれる可能性を感じる作品を遺したんだな、と思います。それをふまえて、本を今後読んでみたいです。

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こういう、映画祭向け、と言われるタイプの映画は、こうやって海外の大学に招聘される機会があったりして、シンポジウムも開催されたりして、世界に知られることはあってもインド国内で上映されたのか?というとよく分からないところがある。伝えたいならインドでも上映されるような工夫をもう少ししても、いいような気もする(他の国際映画祭向けのインド映画にも当てはまることですが。)

今回、丁寧な日本語字幕に、丁寧な解説書に、監督の生の解説に、的確な日本語通訳に…と大変お膳立ていただいてやっと、うん、いい映画だった、と思いましけれど、それがなかったら私の場合。。。(以下、省略)

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女性監督のインド映画というと、日本でも映画祭で何度か上映された(ナンディタ・ダースと同じく女優出身の)アパルナ・セーン監督作【Mr and Mrs Iyer】(2002)が何しろ印象深いんですけど、あの映画では解説なくても大号泣大感動だったし、歌って踊るインド映画ではない(音楽は同じ、ザーキル・フセイン)ものの本国インドの4主要都市で3ヵ月のロングランだった、という実績が。

ナンディタ・ダース監督の言う、ボリウッドが人気だから(歌って踊らない、インディペンデントな)マントーのような映画はインドで上映されにくい、というのは、確かに難しいのでしょうけど、「ボリウッドのせいで上映されない」という、何か敵対するようなニュアンスが感じられて、ちょっと違和感がありました。世界に誇る小説家の映画なんだから、もうちょい、うまくやっていける方法もあったのでは…。

ヒンディー映画界のラージクマール・ヒラーニー監督や、タミル映画界のマニラトナム監督やシャンカル監督みたいな、社会的メッセージを発信したいけどたくさんの人に見てほしいから敢えてエンターテイメントに仕上げてくるような商業作品もある訳で。シャンカル監督サイコー!な私としては、シャンカルだって歌って踊ってるのに、感情を揺さぶるすごいメッセージ性の作品ばかり撮ってるんだから、すごいんだよ。 歌って踊っての映画もぜひ学術的な所でも紹介してよ、シャンカルも呼んでよ、なんてひがんだりもする(笑)

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映画としては、私にはちょっと合いませんでしたが、マントーの発していたメッセージ、ナンディタ・ダースがマントーを通して今の時代にも伝えたいメッセージは受け取りました。勉強になりましたし、見られてよかったです。今後少しずつ、マントー作品も読んでいきたいと思います!

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