南インド映画祭2017 観たもの感想

Indian Movies / インド映画の話

家庭の都合とかで結局5作品を観るのがやっとだった、南インド映画祭。5作品だけなので備忘録をまとめておこうと思います。
南インド映画祭の主催者・関係者のみなさま、開催ありがとうございました☆

テリ〜スパーク〜 / Theri / Tamil, 2016

1998年に【ムトゥ 踊るマハラジャ】でインド映画趣味に開眼した私、圧倒的なスター性やカリスマを感じる映画が好きなんだなあと、【テリ】を観てても改めて感じる次第。かっこいいわ〜、かわいいわ〜♪

基本的にはムトゥのように、主人公がいっぱいアクションしても誰ひとり殺すことなく、悪い人も含めてみんないい人になって、ハッピーエンドになるタイプが大好き。自分の大好きヴィジャイ映画ベストテンにはそういう映画の方がたくさんランクインしてくるし。(【Thirumalai】とか、【Sivakasi】とか、【Azhagiya Thamizh Mahan】とか、【Nanban】とかね!)
自分がインド映画を見始めた当初に【テリ】を観てたらひいちゃったかもしれなけれども。そして去年の公開時に初めて観たときにも、ヴィジャイにこんな役を演じさせなくていいのに!こんなタイプの映画引き受けなくてもいいのに!なーんて、まず思ってた。
でも時間が経つにつれ、なんでヴィジャイはこの映画を引き受けたんだろと考え続け、今回の南インド映画祭でこうして見直すことができて、悟り(?)を開けたような気がします。ヴィジャイはこんな強烈な役を確信をもって、世間に影響力が大きい自分がやらなければならないと思って演じてたんだと!

この映画では社会悪に対する強烈な怒りが描かれてるけれども、そのメッセージもあるし、その社会悪を映画という虚構の世界でヴィジャイが必殺仕事人的に成敗してみんなでスカッとカタルシスを得る、というのもあるけれど。

でも、それよりもまず、あんなにレイプ事件が実際のインドにおいて多発していて、レイプに対する裁判が甘かったりなどの反発の人権運動なども活発化していて日本でもその一端が報じられている昨今ながら、映画の中でラジェンドランが悔しそうにヴィジャイに長々と橋の上で語るシーンが肝。インドのレイプ事件がどれだけあってそのうちのどれだけが立件されて、でも圧倒的多数は有罪までたどりつかず、有罪となったとしても権力者が当事者ならお金や力ですぐに出所してしまうという現実、そして同じ犯人がレイプを繰り返していくこと。

そして、一番重要なのは、そうした現実について、世間が無関心でニュースとしての価値をメディアがあまり認めていないし、たとえニュースで報じられたとしても、女優が結婚したなどという芸能ニュースが出たらあっという間に忘れ去られてしまうこと。
田舎の農村の水問題について悪と闘う【Kaththi】(2014年)も、世間の無関心で農村の苦悩が置き去りにされることが描かれていたし、その頃にヴィジャイは自分の社会的使命について、何か強く感じるものがあったんだろうな。
だからヴィジャイは、タミルの芸能界トップを走る人間の一人として、この現実に世間の関心を向けさせるために【Theri】という映画に出たんだな、と。(演出の仕方は日本人的にはどうよ?と思う面があるにせよ、この問題が少しでも観た人の心にひっかかれば、この映画の勝利なんじゃないかな。現に去年タミル映画で100カロール突破した映画はカバーリとテリ位だから、ヴィジャイは十分に役割を果たしていると思う。)

映画と政治が密接に関わっているといわれる南インドですけど、その独特の社会の中で映画がこんなふうに使命を帯びることもある、という一例として、今回の南インド映画祭でこの【テリ】が紹介されたのは意義があったと思います。
映画祭さん、どうもありがとうございました!

…で、もし次にヴィジャイ作品を取り上げてくださることがあれば、今度はもっとストレートにヴィジャイがキュートでかっこよくて爽快な作品をぜひ紹介していただきたい☆ 現最新作の【Bairavaa】とか、上記の【Kaththi】とか、きっと、うまくいくのタミル版【Nanban】とか、日本ロケ有りでモーハンラールとの共演がゴキゲンな【Jilla】とか、シュリデヴィ&スディープとの共演が豪華で楽しいファンタジー【Puli】とか!!! もちろんクラシックとして【Thirumalai】とかも歓迎です(笑)

帝王カバーリ / Kabali / Tamil, 2016

去年スクリーンで観た新作もので一番好きだった映画。ラジニのプレゼンスがとにかくすごい、素晴しい。(【ロボット】の後、長期入院したりして、ちょっと生彩が無くなっていた感があったところ)やっとラジニが帰ってきた気がするーと、初めて観たときは本当に興奮した。
それから、テリと同様、マレーシアに生きるタミル人の苦悩について知ってくれと投げかけている感じも、すごく心に響いた。

その興奮の余韻がまだ残っている中、日本の上映を観に行ったんですけど、まさかの大幅なカット版!!! 悪い奴は迷いなく殺してやる!!!というラジニの迫力大全開の牢屋を出てすぐのアクションシーンをはじめかなりの部分が削除;;;
あのラジニの迫力を観たかったのにぃぃぃ〜と肩透かしをくらい、その後もアクションでなくても、ゆったりしたセンチメンタルなシーンなどもはさみが入っていたようで唐突な展開が続く印象。。。
ふ、不完全燃焼。。。

ぜひ、完全版で改めて再上映していただきたいと願ってます! どうかなにとぞ、よろしくお願いいたします!

(余談;マギルッチの日本語訳は、なぜ、ああいうことになったのでしょう?)

テリもカバーリも、主人公が親として子供に向ける目線とかちょっとしたやりとりが、胸キュンになるところが多数。自分も今子育て真っ最中なので、余計にきゅんきゅんしてるのかな。
タミル映画は親になった人間(とかアラフォーとかアラフィフが主人公で若い女の子を追っかけるだけじゃないストーリーになるもの)が主軸になるタイプの映画はまだ多くない感があるので、今後もっとそういうのも観てみたいなあと思います。

人形の家 / Bommarillu / Telugu, 2006

あと30分位短くてもよかったけど、血みどろ描写が流行りまくった2000年代の半ばに、こういう映画が出てちゃんと大ヒットしたというのは、とてもよいことだと思う!

【あなたがいてこそ】の主役だったスニールさんがこの時期はまだお手伝いさん役だったのね〜、とか、プラカーシュラージが2006年にはもうこんなに太ってたのかと(2002年にお会いした頃はスマートだったから…)びっくりしたり、まだ下積みだったのかなという感じの(アクション監督デビュー前の)シルヴァがシッダールタにやっつけられているのを観て初々しさを感じたり、南インド映画をそれなりに見慣れた後にこの作品を観ると、なかなかに楽しい。

主役は、2003年に、シャンカル監督のタミル映画【BOYS】でデビューしたカップル。シッダールタ(シッダールト;タミルではたぶんシッダールタと呼ばれる方が多いと思う)とジェネリアーちゃん。
【BOYS】はタミルよりテルグで爆発的にヒットしたらしいので、そういう経緯もあってか、二人ともタミルよりテルグで先にブレイクしてるんですよね。で3年後の再共演がこの映画だったということで、きっと現地では話題だったんでは。
私も【BOYS】を公開当時に観て、二人のその後の成長を楽しみにしてるおばちゃんの一人なので(笑)、素直にこの【人形の家】も楽しめました〜。
後半のジェネリアーが自分の意見をがつんと語るところからは特に面白かった!

2013年にシッダールタは富山にもロケでやってきて、真剣に撮影に臨む姿勢を長々と間近で拝めて余計に親近感があるので、これからも応援してます☆
シッダールタくんの富山ロケ・タミル映画【Theeya Velai Seyyanum Kumar】(通称:TVSK、2013年公開)も、タミルで公開当時3週連続1位獲得の大ヒット映画となった楽しいラブコメなので、ぜひ今後日本ロケ作品も含めて紹介していただきたいと願ってます!!! ぜひどうぞよろしく、南インド映画祭の主催者様。

ルシア / Lucia / Kannada, 2013

幻想的でとても実験的な作品。
クラウドファンディングで制作したとのことですが、出資者にひよったりせず、信念でつくりあげた感がストレートに伝わってきてよかったです。
(昨年末、別のインド映画のクラウドファンディングに出資してみたんだけど目標額に達せず、不成立だったので余計に感心した次第!)

スポンサー資金が集まらない新人監督さんたちは、低予算でまずホラー映画やリアリズム追求の社会派(で救いのない)芸術映画を撮ったりしてキャリアを積む(そしていつか資金を集めて本当に撮りたい作品を撮る)向きもありますけど、この映画はその辺を説得力のある形で乗り越えていて、映画愛も溢れててとても画期的で素晴しいと思いました。

とはいえ、この薬は麻薬みたいな副作用はあったの? 白人さんたちが映画館をペインティングしてくれただけで映画館業が軌道に載っちゃうの?
…とか思っているうちに、映画は終わってしまいましたが;;;

これからも、映画祭が続くのであれば、今回の【ルシア】のように、クラウドファンディングやインディペンデント系のアツい作品を1作は紹介してほしいと思います♪(たまにそういうのは、アジアフォーカス福岡映画祭でも取り上げられていますけど、東京までなかなか来ないし!)

レモ / Remo / Tamil, 2016

女装ストーカーのコメディもの。映画祭の中でもイチオシに紹介されてました。
帝王カバーリがインドで夏に公開されて、その数ヶ月後の秋に公開された作品にもかかわらず、カバーリのモチーフがばんばん登場してくるタイムリーさやスピード感がなかなかスゴい。

矢が刺さってくるポップな描写などは、昔日本公開されたテルグ映画【愛と憎しみのデカン高原】を彷彿させて、楽しかったですね〜

ですが。スミマセン、私はちょっとタイプじゃなかったです、スミマセン!!!

観ていて自分も遠い昔、ストーカー被害をちょっと受けたことがあるのを思い出し、感情移入もできず不完全燃焼…。

婚約者がいる人を追いかける(または婚約者がいるのに違う人を追いかける、結婚式間近で逃げ出すなど)、その縁談を破綻させるタイプの話って、その際に破綻させられた側の当事者や親御さんや親戚あたりがそれを納得して引き下がり、相手を祝福するニュアンスの描写までがないと、インドの場合すごく不安。(【人形の家】では、その辺はきっちり描かれていたから安心。)

だって他のインド映画(Sairatとか… 今公開中のパキスタン映画【娘よ】も結婚から逃げてるだけで殺されそうになってるし)だったら、名誉殺人とかに発展しかねない話よね。アクションシーンでやっつけたって、その後関係者に報復されることが圧倒的に多いし。
レモはそういう部分を収束させる描写がほとんどなくて、落ち着かなかった;;;

それから、男が一途に思い込めば女は振り向く、的な思想。母親に家事が大変だから早く嫁を迎えるよ、という「嫁は女中」と男尊女卑的思想が見え隠れする主人公。(コメディ映画でわざわざそんな台詞言わなくてもいいのに〜 医者であるヒロインが家事に埋没する人になるとも思えないけれどね。)

男に顔に硫酸かけられて重傷な女の子の患者がいても、愛があれば…とかヒロインに説教するのは結構だけど、インド映画でも現実のインド社会でも(逆恨みして)硫酸をかける話はよくあること。
そして硫酸をかけるのはほとんど男側。硫酸かけること自体ももっと強く否定する描写がほしかった。

とはいえ、ここまで考えながらこの映画を観たというのは、ちゃんとした「日本語字幕」が付いていたからであって、日本語字幕なしで頭からっぽにして観てたら、単純に楽しく観ていたかもね。

個人的にこの映画で最大のツボだったのは、【ムトゥ踊るマハラジャ】等の監督であり、今までのタミル映画界で「女装もの」の金字塔(?)になっている【Avvai Shanmughi】(1996)も作ったK.S.ラヴィクマールを監督役に登場させて【Avvai Shanmughi】のパート2を作るから、看護婦の女装をしろ、ともってくる流れ。
エンドロールでもその続きがあって、気が利いていて最高に面白かった。(このアッヴァイ・シャンムギ、ものすごく大好きな映画です♪ カマルハーサンの女装した家政婦さんの活躍ぶりが最高!)
【Kabali】【Baasha】【Vedhalam】【Kushi】などなど、ラジニ、アジット、ヴィジャイ(ダヌシュとかもあったかな?)映画のモチーフが出てきたところも楽しいね。

主演のシヴァカールティケーヤン、初見でしたが、ものまねがテレビで売れて映画に進出しただけあって、叩き上げで器用にいろいろこなしている印象。器用すぎるというかもうちょいアクが欲しいところですけど、まあこの先5年10年後には器用なモノマネ以外の個性も伸ばしてもっと活躍してるかも。

余談ながら、【Theri】を訳した影響で、テリに出てきた単語が【Remo】でも使われているのが聴こえるといちいち興奮しましたw
例えば「Chella Kutty」、テリでは「愛しのダーリン」と訳したけど、レモでは「かわいこちゃん」という訳でした。
直訳はLittle darlingなので、主人公たちの年代によって、あてるべき日本語は変わりますね、なるほどなるほどと興味深かった☆ 
レモはプロの翻訳家さんが訳したようですので、さすが!と勉強になる点が全編に渡ってありました。

あと、レモの告白が「Naan unnai love pandrean」と聞き取れて、こういう言い方もアリなんだな〜と興味しんしんでした♪

もっとタミル映画を観て、もっとちゃんとタミル語を勉強したいと改めて思いました!

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