【Hey Ram】(Tamil / Hindi, 2000)

Hey Ram Indian Movies / インド映画の話

Hey Ram

お盆です。日本では終戦記念日、インドでは独立記念日を迎える時期です。 こういうときにはちょっと平和だとかを考える映画を観ようかな、という気にもなりますね。 というわけで、DVD買っといてずーっっと未見だったカマルハーサンの2000年の監督主演でタミル&ヒンディーのバイリンガルなインド映画【Hey Ram】をついに見ました!

何でこのDVD(タミル語版)買ったかというのは今となってはほとんど覚えてない。 でも2000年のリリース当時、リップtoリップのインド映画が超珍しかった頃に、カマルが自分の作品で、キスシーンをやりたい放題やってるらしい!という話題があったので、たぶんそれで買ったんだと思う。 ちなみに2000年のタミル映画の年間第1位だった、ヴィジャイ主演の【Kushi】も、ヒロインのジョーティカとチュッチュしてたのでした。 Kushiは割と他愛のない話だったけど、このキスシーンが一番のヒットの原因だったのかしら〜?と思ったりしたもんでした。
でも同じくキスシーンが話題だったとはいえ【Hey Ram】は手に取ってみて、何だか難しそうだな、英語字幕で観るのも結構きついかも、後で観よう、と思ってそのままずっとしまいこんでましてね。 で、今に至りましたが、自分には今観てちょうどよかったかも! 難しかったけど、素直に面白かったし引き込まれました!
あらすじ知らずに見始めたけど、「ガンディーを暗殺」しようとする男が主人公。こりゃチャレンジングな!

あらすじ

1940年代。タミル人のブラーミンで考古学者のサケット・ラーム(カマルハーサン)は、モヘンジョダロの遺跡発掘に従事していた。 発掘仲間で陽気なムスリムのアムジャード・カーン(シャー・ルク・カーン)はタミルの大学で勉強していたのでタミル語が話せて、ラームとも親友だった。 異教徒同士でもお互いを尊重していたが、ラームはインドからパキスタンの独立を希望しているわけではなかった。
暴動が頻発し、遺跡発掘を中断させられたラームは、最愛の妻・アパルナ(ラーニー・ムカルジー)の待つカルカッタへ戻った。 だが再会を喜んだのもつかのま、アパルナも騒乱に巻き込まれ、過激なムスリムの手で無惨に殺されてしまった。 呆然となりながらも騒乱は大きくなるばかり、ラームは銃を持ち、狂乱状態のムスリムたちに銃口を向けた。 
翌日の町は遺体が散乱、ラームは、これはいったい誰の責任なのか、誰に怒りをぶつけていいのか分からず、途方にくれる。

道中で出会った、シュリーラーム・アビヤンカル(アトゥル・クルカルニ)という男がいた。 彼はマハトマ・ガーンディーこそが元凶で、平和を取り戻すにはガンディーを暗殺するしかない、とラームを徐々に洗脳していくのだった。

数年後、インドとパキスタンは分離した。しかし、ヒンドゥーとムスリムのいざこざは治まらず、政情不安は続いていた。
叔父叔母の勧めでマイティリ・アイエンガル(ヴァスンダラー・ダース)と再婚したラームだったが、アパルナが殺されたときのトラウマが癒えることはなく、ことあるごとに悲劇がフラッシュバックしては怯えていた。 
ある日アビヤンカルが落馬事故にあい、ミッションをラームに託して死んだ。

マイティリを愛しはじめていたラームだったが、意を決して家族を残しガーンディー(ナスィールッディン・シャー)のいるデリーに向かう。
そして思いもかけず、アムジャードと再会した。 アムジャードはインドこそが私の祖国だと、パキスタンに渡らずにインドに残っていた。 様子のおかしいラームにアムジャードは気づき、自分の命を賭けて親友・ラームを思いとどまらせようとするが…

コメント

いやー、まだシネコンがそんなに発達していない時代2000年にこんな映画を自分でお金集めて監督して主演しちゃったカマルハーサン。 Wikipediaなどを参照すると、興行成績はとんとんかフロップ、という感じだったようだけれども、シネコンでアートっぽい映画もたくさん上映されるようになった今公開されていたら成功していたかも、当時のメディア批評なども軒並みべた褒め状態。
いやいやいやー、分かるなあ。 こんなの作られちゃうと、カマルの親友・ラジニカーントも自分の志を表した映画を作りたい!と思ってもおかしくないよね。 それが2002年にラジニが自身で制作した【Baba】にも繋がっているのかなあ…なんて。 シャー・ルク・カーンもこの映画出演に際し、カマルに敬意を表してギャラを全く求めなかったとか。(ノーギャラ?)

ガーンディーはアヒンサー(不殺生)を唱えるけれど、民衆の殺し合いは後を絶たず、その不条理さに苦しみ、暗殺を決意するけれどもそれでいいのか?とも迷い、時々フラッシュバックが襲ってくるラームの揺らぎぶりが、とても心にしみました。

日本に入ってきてるテロ系とか暗殺もののインド映画って、【ディル・セ 心から】【マッリの種】あたりが有名だけれども、そういった映画はテロリストとして育てられた人物にフォーカスが当てられている。 このラームはハイカーストで考古学者な、本来武器なんか手にしなさそうな人物で、それが揺らいで揺らいで、やっぱり自分がやらなければならないという心理に追いつめられていくという設定が新鮮。 最後の最後まで揺らぎ続けているのが人間ぽくてぐぐっとくる。

しかしだな、カマルって小難しいやつをやるのが好きだけれど、スキモノの癖もあって、この映画で思う存分チュッチュチュッチュしてるよ、おい。 1回や2回の話じゃなく。 来たー!と待ち構えちゃったよ(笑)
そういうところが、完全に芸術映画にまではなっていなくて、ミュージカルシーンも少なめながら見応えあって娯楽作品としても充実。 途中、カマルが騒動に巻き込まれるときなど、カマルが殴ったら敵はじゃんじゃんクルクル飛んでいくんじゃないか、とつい期待してしまったりした;;;(さすがに飛ばなかった)

役者ごとの感想

カマルハーサン:やっぱりうまい。 役者魂バリバリなのが静かな画面からでも溢れんばかり。 監督はもちろん、脚本やら振り付けも自分でやっていて、マルチだ。 個人的にはコメディー映画でのカマルの方が圧倒的に好きだけど、この映画が代表作のひとつと称されるのもよくわかる。 この次の作品が最高にゲラゲラ笑える(ちょっぴり社会派な)娯楽傑作【Thenali】だったことを思うと、振り幅がほんとに広い、すごい。
もっと日本に彼の映画が紹介されてほしい!!!

シャー・ルク・カーン:目がうるうるしててかわいい。彼のムスリムの役、初めて見たかも。こんなお目目で「思いとどまってくれ!」と懇願されたら、私なら暗殺はあきらめる!
最初のカマルたちとのダンスシーンがとてもイイ感じだった。

アトゥル・クルカルニー:きゃーステキ! 舞台俳優だったのが映画にも出るようになった最初の頃の作品なんですね、これ。 天下のカマルハーサンを煽動しちゃう人物の役だとは、しょっぱなから貫禄のある演技をしていたのね、と感心☆

ラーニー・ムカルジー:ちょっとツンデレでカマルを尻にひく女房役。 とても堂々とした演技でイイ。 カマルとのキスシーンもずいぶん頑張ってました。

ヴァスンダラー・ダース:ええー、映画デビュー作でさっそくキスシーンにも挑んでたのっ。 その度胸で数年後、【モンスーン・ウェディング】で不倫に疲れたヒロインを演じてたのね。 でも、すごく初々しくて、疲弊しきっているラームにとっての一筋の光、という感じがとても出ていてかわいかった。 

ナスィールッディン・シャー:愛しのシャー様、超老け役で怪演。 このガーンディーと会話したカマルが揺らいじゃうのは当たり前!

ナーサル:かっこいい。 短い出演だけれども、非常に印象的だった。 ナーサルさんがムスリムの役というのもあんまり観たことないので新鮮だった。(もちろん本人は実生活ではムスリムなんだけれども。)

※カマルの娘、シュルティ・ハーサンもクレジットなしで子役で出てたらしい

監督・制作・原作・脚本・作詞・振り付け カマルハーサン
音楽 イライヤラージャー
振り付け ラグラーム

おまけ;最近カマルがこの映画について言及したネット記事が出ました。

Bollywood blockbuster to Kollywood classic: Kamal Haasan picks his 70 favourite movies(2017.8.13)内で、【Hey Ram】についてKamalのコメントより;
This film stripped me of all my extra hubris, stripped me to the bone. With all its scars and weaknesses, I could still say I was a proud Indian. In this film, I fell in love with the idea of Gandhi and the spirit of Saadat Hasan Manto. I was introduced to Manto, who is my guru, much after his death. But my pen is filled with Manto saab’s ink. In a tangential way, the film celebrated my hero, Gandhi. It was like a love-hate relationship when you tear off the leaves of a flower and say, love-me-love-me-not… I ended up with I love him and he loves me. Gandhi prescribed ahimsa for everyone, but ahimsa is not everyone’s cup of tea. To truly believe in ahimsa takes a lot of guts. Ahimsa is actually the height of valour.

※Ahimsa,Saadat Hasan Mantoについては、「インド小説に万歳三唱」内のこのページが詳しい

2017年8月14日、タミル版英語字幕付きDVDで鑑賞

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