Neelakasham Pachakadal Chuvanna Bhoomi (青い空、碧の海、真っ赤な大地)

Indian Movies / インド映画の話

イスラーム映画祭6(2021)エクステンデッドで上映されているのを観てきました。

概要

映画祭のあらすじより;
ケーララのムスリム青年カシは、突然姿を消した恋人アシの故郷ナガランドを目指し、友人のスニとバイクに乗って旅に出る。途中、夜盗に襲われ、バイカー集団に助けられた2人は、彼らに誘われるままプリーに立ち寄る…。

ロードムービー、マラヤーラム映画

ケーララ州は、圧倒的にヒンドゥー教徒が人口の大部分を占めるというインド全州からみると、比較的ムスリムやクリスチャンなど他の宗教信仰者も多く、異教徒同士でも割と穏やかに共存していると言われる地域。
そんなケーララのムスリムの若者が、自分のコミュニティや州を出て様々な州をまたいで旅をする、しかも鉄道や飛行機ではなく、各地の観光業に関係ない人たちの生活の導線にも直結している道路を走って旅をする、となれば、いろんなことに遭遇しそうだ。

2013年の映画なんですね。今2021年だから、8年前だ。日本でインド映画で一般劇場公開されたロードムービーは【デリーに行こう】(2011)、映画祭公開では、【ロード、ムービー】(2009)、といったところが思い出される。 どっちの映画も大好きなので、南インドのロードムービーというのも興味をそそられるところ。

上記2本に較べると、あからさまなギャグやコメディみたいな場面がなくて、シチュエーションで少しクスッと笑えるところはいくつかあるけれど、なかなかに硬派。(この辺がマラヤーラム映画、ってところなのかな。
かと思うとビキニの女の子が出てきたりビックリしたりもする。(でも、あからさまにエロく撮っていないので、私には見やすくてよい)

コメディ控えめで観てて退屈になるかと言えば全くそうではなく、主人公・カシ役がなんといってもドゥルカル・サルマーンだからね!
日本でも一般劇場公開された【チャーリー】の主演だし、DVD発売された【ウスタード・ホテル】もそうだし、他にも東京国際映画祭などいろんな映画祭で日本に彼の出演作品が紹介されている。
もう映画に出てくれば何しても絵になってて、安定でかわいくて誠実でこの映画でも最初から最後までイイ男。 そして興行成績はどうあれ、良い作品に出ているイメージが私には強い。
彼が出演するというだけで、映画にも信頼感があるというか。 この感じ、00年代前半の頃の、タミル映画界でのマーダヴァンの立ち位置と似てる気がする。

映画を見ていて、当初ドゥルカル・サルマーンしか俳優を分かっていなかったので始めは彼ばかり見ていた。
でも、バイク旅の相棒・スニ役のサニー・ウェインが旅と共にじわじわとイイ男になっていくのが、私にはツボだったらしい。 彼、ちょっとカールティ(もうすぐ【囚人ディリ】が公開!)にも似てる?)
しかも、ヴィジャイファンらしく、ヴィジャイファン役で主演した【Pokkiri Simon】という映画もある。 いいねえ(笑)
スニは帰りにあのコに会えたのかな…

南インドの南端の方の大学生が、バイク旅でわざわざ北東インドの端まで目指すという、あまりに距離が長すぎて現実味がないところがあったりする(上で挙げた【デリーに行こう】などは、車で「北インド」の中を移動するだけだし)。
でもそこを変わっていく風景の映像美だったり道中の人々との交流を繊細に描くことで、インドの各地の諸問題を押し付けがましくなく織り込みながらで展開して、インドの多様性を改めて感じるとともに、面白く観られた。
ナガランドに向けて走っているけれど、実は本当に目指すのかは迷っていて、道中で心の揺れが感じられる台詞がたくさん出てくる。だから列車で直行ではなく、バイクで気ままに、なんだ。
どうして、緑緑してなくてカラカラの荒野って感じのところ、貧困に喘ぐ人たちが住むところ、とにかく色味がないところでさえも、マラヤーラム映画にかかると「映像美」になっちゃうんだろうなー。不思議。
数えてみると、ケーララ州からスタートして、ナガランド州まで、映画の中でバイクで駆け抜ける州は7か8。
それぞれの州で話される言語は変わり、その他にバイクでは走ってないけどタミルの女の子と出会ってタミル語が出てきたり、共通語として英語が出てきたり。
マラヤーラム語、英語、テルグ語、タミル語、ヒンディー語、オリヤー語、アッサム語、ベンガル語、ナガ語、トータル9言語が映画に登場。ひとつの国の中を旅するだけでこんなに。でも、インドの公用語は22あるから、まだまだ一部分なんですよね。広い。インドは広いなあ。

一昨年観た【あまねき旋律】の舞台・ナガランドが、こんな物騒な問題を抱えたところだったとは。
同じ土地でも、ひとつの映画だけでは見えないことを、別の映画で知る。
一つの映画で知った気になるのはよくないね。

【モーターサイクル・ダイアリーズ】を観てないので、そのうち観てみよう。

イスラーム映画祭のこと

イスラーム映画祭では上映前に、トークショーがない場合でも、主宰の藤本高之さんが数分間登壇して挨拶と作品の鑑賞ポイントを話してくださることが多い。
今回も
●日本語字幕内で、インドの言語別にカッコを変えて区別する趣向を凝らしたこと(マラヤーラム語はカギカッコなし、残り8言語がカッコの種類を変えて登場する)
映画内で、いっぱい言語が出てきたなあ。英語とタミル語以外は、聞いてる者としては区別がついてなかったので、こういうのは実にありがたい。)。
●インドのバイクとしてトレードマークのようなロイヤル・エンフィールド(私には、ヴィジャイの【Thuppaki】などでお馴染み!)が、実はイギリス発祥ながらイギリスが撤退してインドでだけ今は製造されているというルーツがあること、インドで憧れのバイクだけれども頑張れば手が届くバイクであること、主人公はおそらく頑張らなくても手に入る裕福な家庭出身であること、連れの相棒の方は頑張らないと手に入らない家庭出身だと思われること。
…といったところを、押し付けがましくなく、ネタバレというほどでもないところでレクチャー。
私みたいに、ネタバレ大嫌いで映画を観る前に作品情報をほとんど全く見ない・予告編もほんとに流し見しかしない、目にした宣伝情報もほとんど頭に入ってない人にとっては、こういう直前のミニレクチャーは、ハッとさせられる。

映画祭プログラム「イスラーム映画祭アーカイブ2021」も、藤本さんがどうしてこの映画を今回の映画祭で選んだのかのコメントがあった。
(この映画祭じゃないところで上映される映画も、配給会社やバイヤーがなぜこの映画を選んできたのかもっと発信してくれると作品に対して親近感が湧くのになあと思う。)
安宅直子さんをはじめとする、様々な識者の長文コラムが載っているのも読み応えがあって、丁寧に、作品にリスペクトを持って映画祭で紹介していることが伺える。

それから、プログラムの冒頭の映画祭挨拶文に、イスラーム世界のことはもちろん、その地域の映画も上映したりする日本の映画業界のハラスメント/労働環境問題にも言及があり、感動しました。

このコロナ禍を機に業界が生き残りを訴えるばかりで、それらの問題を改善することができないなら、世界中の様々な問題(その多くは社会の一隅で虐げられている人々をめぐる)を描いた映画を観ることなど、もはや何の意義もないと言えます。…

確固たる意思があって、信頼できるというか、こんなに言い切っていてかっこいいなあ。(私も当該映画館には、自分が昔ブラック企業で働いていた時のことがフラッシュバックしかねない状態になり、近寄れないでいる。そういう映画館で上映するのを避けてくれて、その問題にも積極的に言及されているの、本当にカッコいい。)

来年のイスラーム映画祭7も、楽しみにしています!
来年は、インド映画以外ももっとたくさん観に行きたいです。コロナ収まれ!

2021年11月9日 イスラーム映画祭6(2021) エクステンデッド @ユーロスペース で鑑賞。

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