ナトゥ (1999 日印合作)

Indian Movies / インド映画の話
【ジーンズ 世界は2人のために】【ナトゥ】ちらし
ナトゥ

【ジーンズ 世界は2人のために】【ナトゥ】ちらし

ちらしの中央に太字ゴシック縦書きで「マサラ・ムービー日米対決」の一文。
インド映画なのに、「日米」対決とな。
公開して20年経った今、改めて読み返しても、とても不思議な、後にも先にもない、インド映画ちらしのコピーじゃないです?
(共同配給者に「電通」の社名が! 電通のコピーなの? 電通のコピーなの???)
カップリング上映だった【ジーンズ世界は2人のために】がアメリカ(ハリウッド)とインドの合作なら、【ナトゥ】は日本とインドの合作。
日本のTVバラエティ番組企画ものということで、番組のファン以外にはキワモノ扱いされがちかもしれないけれど、インド好きなら、きっとめちゃくちゃ面白くみられるよ、観てちょうだい!なタミルパワーあふれる一作。

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『ムトゥ踊るマハラジャ』4K & 5.1ch デジタルリマスター版(字幕版)(4K UHD)1998年の【ムトゥ 踊るマハラジャ】日本上陸後1年ほど、雨後のタケノコのように、わらわらわらわらインド映画やインド映画もどきなものが公開されました。
ムトゥ公開後、翌1999年までに日本公開したインド映画は、ラジニカーントもので【ヤジャマン 踊るマハラジャ2】【アルナーチャラム 踊るスーパースター】、他にも【ボンベイ】【シャー・ルク・カーンのDDLJ恋のラブゲット大作戦】【ボンベイtoナゴヤ】【歌う色男、愛・ラブ・パラダイス】【アンジャリ】【愛と憎しみのデカン高原】… (2000年1月1日に【ジーンズ世界は2人のために】)

テレビでも、

インド映画風のCMや、

(↑合同酒精の缶チューハイHI-BOY。ムトゥもどきな衣装だけど、ラジニとミーナではない。でも踊ってる人は当時としてはタミルでかなり人気のあった、ラームジとサンガヴィ。貴重。高画質で見直したい。)

インド映画をテーマに現地まで取材に行った番組も…

(↑小林聡美がインドで、踊っちゃう【超アジア通】。俳優が演技しながら踊るって、こういうことなんだな、と聡美ちゃんを見て腑に落ちた。)

インド待ち(←「インド待ち」という、撮影時のことを綴った本も出版された、周防正行監督がインドで【パダヤッパ】を観て、シルパ・シェッティ達に自身の映画【Shall we ダンス?】を見てもらうドキュメンタリー番組【映画監督・周防正行が見た! 踊る!大インド映画紀行】)

本作【ナトゥ】もその中の、ひとつ。
いやいや、流れとしてはそうでも、日本人2人(正確に言うと、日本人1人と日本のテレビ番組に出演し始めたばかりの中国人1人)がインド現地に乗り込んで、インド現地のスタッフとインド映画スタイルで「マサラな映画」をガチで1本作ってきちゃった、という、後にも先にも今のところない、トンデモ企画だったのだっ。

でも、

“日本のテレビの企画もので、厳密なインド映画じゃないだろうし、38分で入場料金720円は高い”

…なんて当時は思って、見送りしました。

スミマセン。

(カップリングの【ジーンズ】は水曜日の1000円の日に観た記憶が。3時間で1000円と38分で720円では、だいぶ割高感が…)

でも、後年、VHSを入手して観てみたら、うわー映画館で観たかったなあって。

スミマセン、20年前にシネセゾン渋谷に、ジーンズと一緒に観に行っとけばよかったです。

言い訳をさらにすれば、当時、「ムトゥを超える!」とかムトゥを比較にして宣伝文句をうたわれると、ムトゥを宝物のように思っている私は萎えてしまっていて、【ジーンズ】もやっと1回観た、という感じ(しかも1000円の日に)でした。何というか、ムトゥにリスペクトとかムトゥを超えるやつよりも、ムトゥやラジニ映画そのものに興味が強い時期だったので;

でも、スミマセン!
観るチャンスがあったのに観に行かなかったのは事実です。

反省してますから、どうかまたどこかで単発でもインド映画祭の中で回顧上映でも何でもいいから上映してください。
お願いいたします!


発売されていたVHSは本編38分と、続いてメイキング30分の構成。

本作は38分と短編ながら、全編タミル語!(ナンチャンの声までタミル語)
そして38分の中に、フルレングスのマサラなダンスが3曲。
短いけど、インド映画!

ずいぶんと話ははしょられて場面が飛んでしまうけれど、インド映画(特に南インド映画)をたくさん見るとハマってしまう、あの「エモーション」が、この38分にぎゅうぎゅうに凝縮されている。
撮影期間は5日間。(1999年8月29日~9月2日)
その5日間に、インド映画撮影未経験の2人を主役に、集中力と力技で作り上げてるドライブ感が、今見ると何とも言えない。
作りこむ余裕がないからこその、瞬発力・臨場感やインド映画の演出のうまさが際立っているというか。

ケディの相手役になった、リアーズ・カーンの演技が、(きっとこの映画はアルバイトみたいなものだったのだと想像しますが)情感溢れていて、ステキだなあ。 さすがヴィジャイのお兄ちゃん役(【Badri】)などをしていた人だ。

ナンチャンの相手役のスバーシュリーも割とビッグネームのお方だけど、優しそうな雰囲気が画面に出ていて、いいなあ。 

2曲目の牢屋ダンス(野郎共のゆるい牢屋ダンス)のカシャーン・カーンも大きな図体で何気にかわいいんだが。(ナンチャンと友だちになる過程をもっと長く見せてほしかった~!)

1990年代後半~2000年代あたりのタミル映画をたくさん見ている人ならお馴染み(ヴィジャイの【Thirumalai】とか)の、アジャイ・ラトナムが、安定の悪役演技! この人の存在で、インド映画も俳優もほぼ初挑戦の主役2人の映画を引き締めて、インド映画の世界にグッと引き込んでる!

メイキングを見ると、この悪役さんが、演技初体験で困っているケディが奮闘するたびに笑顔で応援していたりして、いい人~、
タミル映画で悪役ばっかりだけどこんな紳士な笑顔をする人なんだなあと萌える。

それから、アジャイ・ラトナムの子分役の、ラーム&ラクシュマン! 後にスタント監督(アクション監督)として大活躍中ですよ、ちょっと!

ラーム&ラクシュマン、2020年の今年、日本でも公開されたプラバースのバーフバリに続く新作【サーホー】でも、一部パートでアクション監督を務めていたようです。(映画館で、エンドクレジットではっきり確認しました)

メイキングが、またいいんです。
日本人目線で、インド映画撮影現場を目の当たりにした驚きにあふれていて。
大半がAVMスタジオでの撮影のようですが、タミル映画の大半がAVMスタジオ撮影ですし!ラジニもヴィジャイもしょっちゅう撮影している所ですから!

ダンスマスターのシヴァシャンカル(シヴシャンカル)の振付風景や合間の顔芸(?)が面白い。
シヴァシャンカルは、2003年のダヌシュの【Thiruda Thirudi】の「Manmadha Rasa」の振付もしていて、この年のタミル映画界の「最優秀振付賞」などをガバガバ受賞していた、エース級のダンスマスターでっせ!
2008年、【マガディーラ】のこの曲でもナショナル・アワードを受賞しておる。

バーフバリ伝説誕生】でも振り付けてるよ。
そして、実は俳優としても、【サルカール 1票の革命】にちょこっと出てたらしい。
どこに出てたか分かる?

正解は;
…スンダル(ヴィジャイ)が、立候補の届出に行った選挙管理事務所の受付の意地悪そうなおっさん役!
(ナトゥ映画パンフでも、「最近悪役男優としても独特のキャラクターで好評を博す」と紹介されていたナ)

私がインドムービーダンスを習っていた、バラ先生が、シヴァシャンカルのアシスタントとして、振付している様子も映っている。

バラさんは、インド映画界で「ダンスマスター」としてはクレジットされなかったけどアシスタントとして実質全部振り付けた、という映画がたくさんあります。ナトゥの場合もそんな感じだったとか。(そうやって、師匠に手柄を取られてしまうことは、とてもよくあること、らしい)

ナトゥのダンスを見ていると、あ、ここはヴィジャイのあの映画のステップみたいだー!とか、そういう見方をしていても楽しい。(実際、ヴィジャイの何作かも振り付けたお方たちですから)それを日本人のナンチャンが踊るのだから、何かすごい。

演技初挑戦だったという中国人のケディが、必死でタミル語の脚本を覚えて台詞をしゃべるところ(本編ではインド人の吹替でも、リップシンクのために、撮影時にちゃんとタミル語でしゃべっているのだ)、緊張でガチガチだったところをインド映画撮影現場の人達がインド式に励まして乗り越えるところもじーんとくる。そしてその上でまた本編を見るとすごいよ、ケディもこの38分の作品1本でグンと成長したんだろうけど、インド映画のマジックみたいなものが、はっきり感じられる。

ナンチャンも、日本では超有名人でもインド映画の撮影現場では「この人ほんとに踊れるの?」と周囲から疑いの目をかけられながら踊っていたり、緊張感があったことが伝わってくる。

ロケ現場のケータリングカレーの紹介シーンがまたいいんですよ。インド料理に単純に興味のある人たちにも面白いと思う。
ナンチャンが毎日カレーは辛い、とか言いながら食べてて。

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本編&メイキングを全部見ても1時間ちょっと。でも、インド映画のエッセンスが凝縮され、これを見ておけば他のインド映画への見方もかわって、もっとインド映画鑑賞が楽しくなるかもね!
少なくとも私には、そうでしたよ!

映画データ

監督:S・アジットクマール S.Ajit Kumar
音楽:カラン・コティ Karan Koti
アクション監督:ホース・ピー・バブー Horse P.Babu
ダンス監督:シヴシャンカル(シヴァシャンカル)K.Sivasankar
撮影:S.ナーイドゥ S.Naidu ※アミターブ・バッチャンの【アマル・アクバル・アントニー】などの撮影監督
衣装デザイン:リンクー Rinkoo (Rose Samuel)
出演:南原清隆/ケディ・ティン/ラージャシュリー/アジャイ・ラトナム/リヤース・カーン/カシャーン・カーン ラーム&ラクシュマン兄弟 他

挿入歌
♪ 兄妹の唄 (チッチナ) Brother song: Srinivasan/Harini
♪ 監獄の唄 (サヨナラッ) Jail song: Karan Koti
♪ しあわせの唄 Happy song: K.Murlidharan/Gopika Purnima

【ナトゥ】&【ナトゥ 踊る!ニンジャ伝説】|唯一の「日印合作マサラムービー」企画のページでも書いてますが、ナンチャンはこの1作目だけに終わらず、2000年夏には2作目のナトゥを作りにインドに再び向かうのです。日印合作の映画の可能性を前向きにとらえて、1作目より大きな企画にして。

発売メディア

ソフトは、VHSだけしか出ておりません。TSUTAYAさんのレンタルとかならまだ観られるのかな?

映画パンフレット 「ナトゥ」 監督/脚本 S.アジット・クマール 出演 南々見狂也/ケディ・ティン/ラージャシュリー/リヤース・カーン/アジャイ・ラトナム/カシャーン・カーン/ラム&ラクシュマンパンフも、当時としてインド映画を丁寧に紹介しようという雰囲気があって、テレビの企画物といっても侮れず、よいインド映画の入門ガイドにもなっています。
インド側のキャストやスタッフ紹介も詳しいし、江戸木純さんのナンチャンとの対談、ケディの撮影日記も楽しい。

テレビ番組企画の「邦画」でもあるので、みなさんの要望が高まれば、オンライン配信されたり劇場再上映の可能性も無きにしもあらず、では。
とはいえ、インドが好きでVHS再生できる環境にある方は、中古でも熱烈にオススメしたい!
いいよ!

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