Monster (Tamil, 2019) |S.J.スーリヤvsネズミのバトルコメディ

Indian Movies / インド映画の話

Movie – மாண்ஸ்டர் Monster
Cast – SJ Suryah, Priya Bhavani Shankar, Karunakaran, Anil Kumar
Music – Justin Prabhakaran
Written & Director – Nelson Venkatesan

こうやってクレジットをただ見ただけなら、自分的にはあまり見慣れた名前でもなく、そそられないというか、見落としてしまうかもしれない。
しかし、2017年に【Mersal】でクレイジーな悪役ダニエルを演じたあのS.J.スーリヤが、その後の2019年に主演したネズミと闘う映画(しかも題名が「モンスター」)、と聞けばそりゃあ一度は観てみたい。

と思いつつ1年以上経過。その間に、自分ち(借家)の屋根裏にねずみが出現し頻繁に夜に駆け回られたりして寝られなかったことがあり、不動産屋さんに相談して家主さんがねずみ退治業者さんを数度派遣してくれた。
業者さんが立ち会い時に教えてくれるんだけど、ねずみ退治とは言っても、ねずみを捕獲する罠を仕掛けるというよりも、なるべく別の場所に引っ越しするように誘導したり、もし殺すとしてもなるべく屋根裏でではなく外に出ていき穏やかに死を迎えるように仕向けるエサをしかけるんだそうだ。

そういえば、イギリス映画【ボブという名の猫 幸せのハイタッチ】を観たとき、主人公のジェームズが部屋の壁の裏側に棲みついたネズミのことを分かっているけど、退治しようとはせず、自分の部屋に入りそうな壁の穴をふさいでいるだけ(壁を隔てて共存する)だったな。

そんなこんなな自分たちなりの「家とねずみ」の知見が多少積みあがったところで、よっしゃ、インド映画のねずみとのバトルはどんなんだか、今日観てみよう!ということで。

2019.5.19インド公開。

Edited by V. J. Sabu Joseph
Art Director – Siva Shankar
Sound Designs – Sync Cinemas
Sound Mix – Kannan Ganpath
Stylist – Pravin Raj
Producer – S R Prakash Babu, S R Prabhu, R Thangaprabaharan, P Gopinath

Story

アンジャーナム・アラヒヤ・ピッライ(S.J.スーリヤ)は、聖者 Vallalar を子どものときから熱心に信仰し、虫のような小さな命も殺さず、自然に帰すような男だった。35歳になって何度縁談があってもゴールインに結びつかない、冴えない面もあった。
結婚してよい女性を迎えられる、いい部屋に引っ越せ、とアドバイスされ、水もちょろちょろと出ない下宿先から、シャワーがすいすい出る高級フラットに引っ越すことにした。その物件を決めたその瞬間、以前縁談があったもののすっぽかされた相手の女性から電話があり、謝罪される。
部屋に運命を感じたアンジャーナムだったが、実はその前の住人は、ダイヤモンドの窃盗人で、ラスクに穴をあけて隠し、さらに部屋の壁に隠した状態で転居し、取り返す機会を狙っていた。
また、この部屋にそのラスクを大好物にし、この部屋に執着する「ねずみ」も住んでいて、さあ大変。

感想

冒頭から、虫にも命を感じ慈しむ子ども。ああ、大きくなっても虫を殺さない主人公になるのかな、と思って見てたらやはりそうだった。

自分が初めてインドに来たとき(2000年)、空港に迎えにきたツアーバスの中に何気に大きな蚊がぶんぶん飛んでいたりした。
それが日本で見るよりもバカでかい蚊で動きも緩慢なので、日本だったら絶対にバチンと手で叩いちゃうだろう。
でもツアーガイドの男性(ブラーミンでヴェジタリアン)が優しくつまむと外に出していた(1匹だけではない)ことに、とてもビックリしたのだった。
ああ、不殺生の考え方なのね。(でも蚊に食われました)

そこに家ねずみの登場だ。

ねずみがモンスター!? インド版「トムとジェリー」!?
ねずみがCGらしいんだけど、【マッキー】でのスディープのように、【Monster】でのS.J.スーリヤも後でCGで出現する予定(演技する目の前にはいない)のねずみ相手に実に表情豊かに、心やさしいのが仇になる主人公を演じているのが凄い。

ネズミが全てCGという話 The Making of Monster

ドタバタコメディなんだけど、インドらしい「虫にも命を感じ慈しむ」主人公が全編で貫かれ、思いもよらない方向でのハッピーエンド(本人、ボロボロだけど)。
観た後の余韻が何とも言えなく、最高。

近年のヴィジャイ映画とかタミル映画とかのメインストリームが、社会性を帯びすぎたやつとか、どんでん返しのどんでん返しな複雑なやつとか、回想と現在が入り組んでてわけわかめなやつとか、この1年程、私はちょっとおなかいっぱいというか食傷気味になっていた。
それからもうデジタル制作の映画は技術がすごいのは分かってるけど、目も頭もチカチカするので、これから当面、フィルムで撮られた昔の映画を中心に観ようかな…という感じでもあった。
昔の方がよかった、とかそういうことではなく、自分が今この世の中の流れについていきにくい体調や精神状態だということ。更年期というやつも影響してるんだろうな。

でも、2019年の映画でこんなふんわりと気持ちいい映画を観られたというのは、予想外。嬉しい。
(こういう満足感があったのは、近年のタミル映画では【Sarvam Thaala Mayam】がダントツだったかな。)

この手のファミリー向け映画は、今のタミル映画界ではトレンドではないんだそうだ。(上記のIndiaToday記事によると。)
しかし、【Monster】は興行的に成功したらしい。よかった。

ヴィジャイも、こういうのに、たまには出たら、いいのにな。
(ファミリー向けに作った、2015年の【Puli】がフロップとして叩かれていたことだし、次はなかなか、なさそうか。でも失敗は成功の母として!ぜひまた!)

このダンスがよかった!(この映画、これしかダンス、ないんだけども!)

Choreo – Santhosh

お子様ダンサー集団がねずみ姿になって踊りながら、S.J.スーリヤを襲う!
子どものダンス、かわいいとは思っても何度も見たいとは普段思わない(自分の子どもが踊ったものは、親バカだからもちろん見るけれど)けど、これは久々に快作なお子様ダンスだと思った! さりげない、マイケル・ジャクソンの真似な振付もファニー。
逆に大人がネズミ着ぐるみ姿で大勢で踊ったら、ホラーがすぎる。
バランスが絶妙。
困ったS.J.スーリヤがまたヨイ!

引越し前の下宿先の部屋でのシーンでS.J.スーリヤが見ていたテレビが、シヴァージ・ガネーサン【Mridanga Chakravarthy】のムリダンガム演奏シーン。血を吐きながら目を大きくむきだした憑りつかれたような形相でムリダンガムを叩くシヴァージの表情どアップ。
うわー、これは最近観たばっかりだった。観た後でこの【Monster】を観るとは、グッド・タイミング(笑)

後で検索してみると、この映画が流れたところは、
血まみれで後がないシヴァージの形相にS.J.スーリヤは自分の身を重ねている、という演出で、タミル人が見ればドッと湧くシーンだったらしい。
ドッと湧く感覚が、ちょっと分からなかったので、これからの課題にしておこう。

Wikipedia情報だと、時間は141分。
youtubeにHDで上がっているのは111分。
私が見たSimple South上のは、132分。

9分、短い。

…完全版が、観たい!

余談)インド映画で飼い猫が出てくることがなかなかない、と言われるけれど、この映画の中にはフラットの中で飼われている猫ちゃんがいました。

参照
【Mridanga Chakravarthi】(ムリダンガ・チャクラヴァルティ)

(2021.2.20 Simply South(配信、英語字幕付き)で鑑賞)

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