JB郊外での【Kuselan】…よかった!

Indian Movies / インド映画の話

(シンガポール旅行’08 第2日目~8月30日その5)

734_Perling Mall
タクシーを降りて、まだ少し時間がありそうだから、建物の概観やさっきの車の中から見えた【Kuselan】巨大バナー(看板)を確認。

建物はいかにも郊外というか田舎の国道などのそばに立つ、ドライブインのショッピングモールといった風貌。
JB中心部はシティスクエアというピカピカなおしゃれなモールがそびえたつけれど、このパーリングモールは昔ながらの、という感じね。この中に映画館があるとは、一瞬、想像できない。

T012_Perling MallのKuselan
この看板だけ見ると、ラジニが王様の映画なのか?という想像はしても、どういう内容なのかさっぱり分かりません。
この映画はネット上の情報によれば、田舎町の床屋の男と、いまやスーパースターとなって別の世界に住む男との友情の物語(のはず)なんだよ(笑)。

739_counter
1階にあるチケット売り場。
売り場の方が中国系のようで、「クセーラン2枚ください」と言っても通じません。
「外国語の映画だよ」というようなことを言ってきたので、「タミル、ラジニカーントのクセーランを2枚ください」と言い直しなのである。

日本人がタミル映画を観ようとすると、「観に来た映画を間違えてるんじゃないのか!?」的な反応をされることがほとんどなので、まあ、想定範囲内か(笑)。

チケットはRM12.00。(約400円)
普通の映画はRM10.00のようだけど、ラジニ映画は【BABA】以降(?)、いつも割高。
(何で、他の映画と同様の価格にならないんだろう?)

「ただいま上映中」の表示。
ものすごく渋いラジニですなあ。

737_ハリボテ
【Kuselan】のハリボテが切符売り場の左横に立ってました。

映画館は撮影禁止、というような掲示がされてましたが、「これ撮っていいですか?」と聞いたら快くOKしてくれました。
切符切りの係さんはタミル系。「日本から観に来たのか!」と、写真が撮りやすいようにハリボテ前にかかっていたロープを撤去してくれたり協力してくれました♪
ありがとうございます!

客席は、7~800人以上は入れそうな大きなスクリーン。
ああよかった。
遠路はるばるやってきて、100人も入るといっぱいの小さなスクリーンだったりしたら、萎える。

でも、私たちより先に着席していたのは5人もいなかった。上映はじまって人が増えたけど合計10人くらいかな。
土曜日の15時の上映でこれは、ちょっとさみしいね。
(昨年KLで封切1週間後に観た【Sivaji the boss】は、超満員で場内大喝采でやんややんやとした環境で見られてすごく楽しかっし…。)

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さて、旅日記の前段が長くなりすぎてますが、旅の最大の目的がこの【Kuselan】をスクリーンで観ることです。

全編観終わって、まず感じたことは、

「あ~あ、ラジニ、配給関係だかなんだかのラジニでお金儲けしたいような連中に、いいようにもてあそばれちゃったなあ…」ということ。

事前の宣伝ぶりが、あまりに真の主役・パシュパティやミーナを無視した内容だったから、心配はしてたけれど。
それが宣伝上の話なだけで、映画本編はしっかりしてるかもしれないし、と先入観をなるべく持たないように心がけて観に行ったけど。

1曲目のパシュパティとミーナの音楽シーンをはじめ、パシュパティ家族を中心にしたシーンについては、とっても詩的でじんわりくる展開でイイ感じ。
でもこれだけでは地味な映画に終わってしまうから、ここでスーパースターのラジニが、満を持した特別出演で最高のスパイスとなる、はずなのですが…。

今までせっかくいい素材でていねいにカレーを作ってたのに、仕上げのガラムマサラを入れすぎたら、今までの繊細な調理の過程が台無し、っていう感覚とでもいうのかな。
ラジニのスパイスを入れすぎで、何の映画を観てるのか分からなくなってる。

ラジニ自身はきっと、元のマラヤラム映画がとてもいい内容で、自分も特別出演でタミル映画版に華を添えてあげられるなら一肌脱ぎましょう、という感じで、当初、出演を快諾したのだろうと思う。
(ラジニの演じた役を原作で担当したマンムーティは30分も出演していないそうだし。)

でも撮影が始まってみたら、ラジニに目がくらんだ映画関係者たちでラジニの出演時間を増やすことにばかり力点がいって、最初の思惑とはかけ離れた形になってしまったんじゃないでしょうか?
ラジニと仕事したというだけで名誉なんだろうから、どうせならラジニの特別出演作より主演作で仕事した!ということになったほうがより名誉なのだろうし…。

ラジニ、熱演してましたよ、ダンス頑張ってましたよ、ラジニそのものはカッコよかったよ。
でも、ダンスシーンを含めて映画の本筋に関係ないラジニのシーンが多すぎて、映画全体のバランスを崩しちゃってることは明白。
パシュパティたちの地道な生活の物語の進行に、馴染んでなくて浮いている。

それでいて、出演時間が長いとはいえ、やっぱりラジニの映画ではないので、ラジニのいつもの「売り」みたいなものは足りないんだわ。
アクションだとか、ヒロインと恋に落ちるときのコミカルな演技とか。

このへんの、座りの悪さが、映画の評判の原因だと思う。
さっきの、タクシーの運転手のおじちゃんとの【Kuselan】ばなしが、とても腑に落ちる。

それならば、パシュパティが特別出演で、スーパースター側を主役として潔く制作したほうがよかったかも?…

いいえ!
これは、床屋側が主人公だからこその、ハートウォーミングな映画であるはず。

パシュパティの床屋役、すばらしかった。
才能ある親友を、かつて自分の貯金を切り崩して都市の演劇学校に送り出したのに、いまや大出世してスーパースターになった親友とは境遇が違いすぎて、会いたいけれどいろいろな心の葛藤があって会いたいと声をあげることができない、しがない片田舎のさびれた床屋さんの男。

物語の進行上、この主役が派手に目立つエピソードはないし、出しようがないのです。
スーパースターに比べて、自分は… という役だから。

だから、パシュパティは目立ちすぎちゃあいけないわけだけど、存在感がなさすぎでもいけない。

パシュパティが地味に葛藤している姿を見続けていくうちに、「早く、親友に会えるといいねー!」と応援せずにいられない。
途中、かつて自分の店で働いていたヴァディヴェールが、独立してあくどい商法で店を繁盛させてパシュパティの店を困窮させているうえに、ラジニとツーショットを撮ることに成功して町中で自慢しまくりなのです。
(ちょっと、今回のヴァディヴェールの演技はやり過ぎというか、うざい。)
ヴァディヴェールを横目に、どんな苦い想いをパシュパティがかかえて、言葉を飲み込んでいるのか。

多くを語らないパシュパティを、時にはいらいらしながらもじっと支える妻役のミーナちゃんも実にステキ。

(↓以下、ちょっとネタばれ;)

スーパースターが村の広場でスピーチをして、その中でかつて自分を俳優にするために送り出してくれた友の話をし、パシュパティの名前を何度も口にし、涙する。
それを隅で聞いていて、涙がとまらないのにやっぱり名乗り出ることができずにその場を去るパシュパティ。

そして、ラスト、やっと二人は再会して、親しみをあらわすお菓子の食べさせっこをするんだわ。

ああよかったねー、パシュパティ!ラジニに会えてよかったねー!
ほら、ラジニもパシュパティに会えて、こんなに泣いてるよ!

…と、わかりきったラストだけど、条件反射のごとく、こちらも涙なみだでした。

しかし、エンドロールの途中で、お客はあっという間にいなくなり、フィルムの方も最後まで上映せずに終了されてしまった。
あーうー、余韻もへったくれもない。

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観たばかりのときは、あ~あ、っていう感覚が強烈だったのだけど、
時間が経つにつれ、じわじわと、いい映画だったなー という感覚の方が勝るようになってきた。

普通のラジニ映画ではないけど、その代わり、別の意味での「売り」ももちろんいくつもあるのだ。

映画の筋に関係ない分、より自由な発想によるラジニのコスプレダンスシーンがふんだんに楽しめます。
パシュパティのとても愛くるしい涙顔とともに、ラジニの泣き顔がじっくり見られます!
しかも、(いつもの30歳ぐらいの役より)比較的実年齢に近い、素に近いおじさまなラジニの泣き顔がじっくり見られます!(これは貴重かもしれない)
男の、泣きの映画です!

そう、いい映画なんです!

どうも、インド映画は興行的に成功しただの失敗しただのが先行して語られがちだけど、いい映画かどうかは、人それぞれだし、自分の目で確かめてこそ決まることであって、世間の評判は参考にしても、あくまでも参考。
そんなのに惑わされて、この映画を観なくていいや、スルーしよう、なんていうのはもったいないのだ。

ここの日記までわざわざ読みにきたみなさんは、ぜひ、【Kuselan】を観てくださいね。

ジョホール・バール(の郊外)まで、観に来られてよかった。

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