IMWで、サルカール。 2018年10月の自主上映以来。 ほぼ1年ぶりだったので、ヴィジャイがカッコイイ、選挙の話だ、という以外、ほとんどド忘れしていました。 だって、本当にカッコいいし、アクションはスローモーションでいちいち歌舞伎みたいだったし、映画の情熱が熱すぎてこちらの脳みそもこげちゃったしさ、語彙なんか失うしかないし。
もうここまで忘れたなら、ネタだとかウンチクなど、一切仕入れないで観に行くぜー! というわけで観てきました。ソングシーンも見直さないで行ったからね!
※ネタばれは、ほとんどないと思いますが、映画をご覧になった後で読まれた方がよいと思います。
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ということで、ヴィジャイが登場したよ!
ギャー! 出たあー!(と叫びたかったけど、本日はインド人まみれの自主上映ではないので自粛)
今回、のっけから今までのヴィジャイの登場とは雰囲気がまるで違うんですよ。
ヴィジャイって、謙虚の塊のようなところがあるから、みんなにかわいがられる近所のあんちゃん、って雰囲気で登場することが多い。
でも。サルカールでは。
タバコ、スパスパ。
人の顔にかかる勢いで、スパスパ。
両手広げて、超エラそう。
何、この傲慢なCEOでーす!って感じ。
ラジニっぽい。
すごく、【パダヤッパ】の(タバコ吸ってるときの)ラジニっぽい。
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ラジニ大好きなヴィジャイは、昔は出演作の中でラジニの歌を口ずさんでいたり(【Villu】とか)、ラジニ映画観に行こうよ!(【Thirumalai】とか)と言ったり、ラジニの物まねしてたり、してた。 ヴィジャイが俳優になりたいと父親に直訴したときに必死にデモンストレーションしたのが、ラジニの【アンナ―マライ】の一節だったというのも有名な話であるし。
でも近年あまりにラジニの次のスーパースターはヴィジャイか?…と言われるからなのかな、控えめになっちゃってたんだ。「スーパースターは、ひとりしかいないよ」って。
逆に、俳優からタミルナードゥ州首相にまで上り詰めた、MGRをリスペクトする引用が増えていた感。 前作【Mersal】も、スクリーンのMGRと共に歩くように見えるショットがあったり、息子が腕立て伏せしてるときのBGMもMGR。MGRの頃の映画は、道徳がある!と友人のタミル人が言っていたけれど、ヴィジャイもそういうのを意識しているのかな、という気がしたし、誠実なイメージの合うヴィジャイにはその路線は安心感もあったりもして。
Sarkarでも、MGRがいくつか、引用されてましたねえ。今回気が付いたところでは、日本語字幕でヴィジャイがヨギ・バブちゃんに「誰が善人か悪人か分からないから」と訳がついて語っているところが、タミル語では「誰がMGR(善人)だかM.N.ナンビアール(MGRに対する悪役として最強だったお方)だか分からない」という言い方で、なるほどね!と思いました。 あと「1000人分を1人で投票した」というくだりが、MGRの傑作のひとつ【Aayirathil Oruvan】のタイトルをもじった形だったのが聞き取れましたよ。
それが、何なの、このワルそうな感じ。
カッコいいけど、ラジニっぽいヴィジャイ見るのも久しぶりで嬉しいけど、好みじゃないなあ、ホントは(笑)
(ラジニカーントは悪役出身のキャリアなんで、悪い感じもたまらないけどね!)
だけど、観ているうちに、ヴィジャイ演じるスンダルは、相手を威嚇してのぞまないといけないとか、自分を尊大に見せるくらいにするくらいがちょうどいいと思しきシチュエーションの時にタバコを吸っていることに気づく。
20代の頃に出てた映画では、四六時中タバコを吸っている、感じがありましたからね。それがファッションだった時代ではあるけれど。それと比べるとはっきりタバコを吸う場面を意図的に使っていると感じられる。
→ 2016年に書いた記事ですが、「インド映画の「喫煙シーン」の近年の流れ:ヴィジャイやラジニのタバコ」 ヴィジャイは前作メルサルで、タバコを解禁?したみたいです。 A.R.ムルガダース監督は、記事をふりかえるに、よっぽどヴィジャイにタバコを吸わせたかったんですね。
そして、吸っていないときは、カワイイ。
アメリカから投票のためだけにチェンナイに帰って来たスンダルが、誰かになりすまし投票されてしまっていて、泣き寝入りせず裁判を起こして投票結果を確定させない事態にしたときに怒りだしたのが、30万票差をつけて圧勝しているはずだった与党。
与党のお名前が、実際の現与党AIADMKをもじったのが明白!
2016年に亡くなったジャヤラリター州首相(ジャヤ様)を皮肉った描写がてんこ盛り。ヴィジャイに対抗する悪役のトップは、目ヂカラが全く負けないドスのきいたお嬢さん(ヴァララクシュミ・サラットクマール)でしたが、これもジャヤ様の狡猾なキャラクターの揶揄みたいな面があるんでしょう。(【パダヤッパ】のラミヤー(ラムヤ)・クリシュナンが演じたニーランバリも、ジャヤ様をモデルにしたと言われてる。奇遇なのか、サルカール陣営はパダヤッパも意識してたのか、どっちかな。しかしまあ、どっちの女性も強い、これまたカッコいい。)
とはいえ、AIADMKを批判する映画だとストレートに言えるのか。
サルカールの制作サン・ピクチャーズがDMK寄りの会社。敵の州首相役が元AIADMKの人(現在DMK)、その娘役のお父さん(サラットクマール)はDMK→現在AIADMKと提携の政党党首、レンドゥ(2番)おじさん役(ムトゥのアンバラ様、ラーダ―ラヴィ)は両党を行ったり来たりしてる人(最近は、ナヤンターラーに女性蔑視発言を浴びせてDMKを追われたとか…)と、全てがDMK派ということでもなく、複雑。
そして、ヴィジャイ界隈は割とAIADMKと親しい関係があったぞ。MGRが創立した政党だし! 10数年前、ファンクラブが選挙でジャヤ様の応援運動をしていたこともあったり。その一方で【Thalaivaa】の公開時、AIADMK幹部の横槍等があり、タミルナードゥ州で予定日に公開できない事態に追い込まれて、自殺者が出るなど大騒ぎになり、ヴィジャイ陣営は距離を置くようになった節もあり。
でも大女優だったジャヤ様にヴィジャイはかわいがられていたような所もある。
ジャヤ様が選挙前の人気取りに、電化製品のばらまきなどをしていたのはとても有名だし、私腹を肥やして逮捕されて投獄されたりもしていたけど、ジャヤ様の最大の敵であったDMKのカルナーニディ氏(2018年逝去)も与党の時は似たようなことを行っていたわけで。(昔、NHKスペシャルでも、カルナーニディ政権時のドキュメンタリーで、DMKシンボルの入った電化製品がばらまかれる様子が放映されていた。)
これらの描写は、バナーのサンピクチャーズ(DMK支持のテレビ局)にとっても都合の悪い真実、耳の痛い話だったはず。 ジャヤ様、カルナーニディ様が次々に亡くなったところで、この悪しき慣例について痛み分けをしつつ、切り込んだということであれば、敵の政党を批判するだけではなくて、サルカールの制作陣営の気合はものすごくスケールが大きかったんじゃなかろうか?と思う。
特定の政党を批判するというよりは、南インド全体の悪しき政治の慣習等について、改善を訴えている映画だと思う。(そうじゃないと、DMKばんざい!映画になってしまうかも、だし、それだとDMK支持者しか観ない映画になってしまうかもだし、そうしたらヴィジャイ陣営が訴えたい社会メッセージが限定的にしか伝わらないだろうし。)
30万票差があっても、スンダルのように自分の投票を無効にされてしまった人々が全員訴えれば、結果がひっくり返ってしまうかもしれないという「マーケティング」を行ったスンダルの読みは当たって、どんどん情勢がシーソーゲームのように展開していく。
(仕事でマーケティングをちょっと勉強中の身としては、とても身に染みるマーケティング論でございました。話し方もそうだけど、説得材料につかう事例を正確に調べて、臨機応変にプレゼンに使う、というのは、100冊位「なんとかの法則」系ビジネス書読むよりも、【サルカール】の方が腑に落ちて理解できた。)
※選挙のシーソーゲーム、といえば、ヴィジャイの2005年の【Sivakasi】での攻防も鮮やかで楽しかったなあ。(ぜひ観てみてくださいな!)
※民衆への啓蒙、といえば、ヴィジャイの2002年【Thamizhan】も、若手弁護士のヴィジャイが民衆が法を知れば、自衛ができて世の中よくなる!とがんばるけど、悪い奴らに法廷外で周囲の人たちが殺されまくって壁にぶち当たる、苦しいけど志のある映画。Thamizhanで解決できなかった課題が、「マーケティング」理論と更に強くなったヴィジャイのオーラと腕っぷしで、インドの選挙法49条Pの周知映画【Sarkar】でひとつの解決を得た、ような気もした。(腕っぷしで解決するのは、もちろん違法なのは前提。それで割り切れないものを、映画の中で、神さまと同列の存在・ヴィジャイがスーパーな力で解決する、という話の説得力が完璧なのである。)
中盤で、コーポレート・モンスターで大金持ちで鼻もちならないいけ好かないスンダルの出自が、スンダルの口から明かされる。
漁師から、企業モンスターと恐れられる男になるには、まわりの差別だとか足の引っ張り合いだとかからか抜け出すために、どれだけ気を強く持ったり、ハッタリをかまして生き抜いていかなければならなかったことか…
CEOの座を捨てて、インドの一市民として動き出した後のスンダルは、ほとんどタバコを吸うシーンがなかった。
なんか、それを思うとまた泣ける。カッコイイ。
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ところで、「スンダル」の名前は、Google社の2015年からのCEOで、タミルナードゥ州出身のスンダル・ピッチャイ氏(サンダー・ピチャイ)にちなんだものであると、A.R.ムルガダース監督自身が表明。
そちらのスンダルさんは、傲慢な評判のCEOなのか?とちょっと検索してみたら、対立することを望まず協力的な人、な評判らしい。(Forbes 2015年の記事) それどころか、2018年には、既に巨額な役員報酬をもらっているから、といって高額株式報酬を辞退した、とか。(Bloomberg 2019.5.31の記事) Google Chromeの発案者ですって。 チェンナイであまり裕福でない家庭の出身ながらインド工科大学(←【きっと、うまくいく】の大学かしら)に入って、奨学金でスタンフォード大学に留学し、ものすごいスピード出世だった、らしい。 ものすごいスピード出世、って傲慢と紙一重の強い意志がないとできない話だよな。
そのうち、このスンダル氏の伝記映画でも作られるなら、ぜひヴィジャイ主演でお願いしたい。
↑の曲で、自主上映の時にA.R.ムルガダース監督がカメオで出てきて、票取り用バラマキ政策の家電を炎に投げ入れるシーンがありましたが、そこが公開後にAIADMKの人に削除の圧力をかけられて(ジャヤ様を皮肉っているという理由)、その後差し替えになった(おそらく、上記動画では、2分過ぎのところ。キールティちゃんが踊るのが長くなった印象)経緯があります。IMWでも削除バージョンですね。 そんなの表現の自由でしょ、と思うところでもあるし、映画界出身のジャヤ様が生きてたらどう対応するところだろう?とも思うところ。(でも、生きてたら、怖くて誰もこんなシーンは作らない、か!?)
A.R.ムルガダース監督とヴィジャイのタッグはサルカールで3作目。 1作目の【Thuppaki】はスタイリッシュでウェルメイドな、でもヴィジャイが軍人兼秘密エージェントで悪い奴は容赦なくじゃんじゃん殺しまくる映画、2作目が水道管から地方農民の苦悩を訴え、大手清涼飲料水メーカーや水をやみくもに使いまくる都市の住民へ問いかけるコソ泥ヴィジャイの覚醒がカッコイイ【Kaththi】。 そしてサルカールで、社会的メッセージの過激さはまた増してきたようで。ヴィジャイとムルガダース監督は同い年でこれからますます脂ののってくるであろう40代。 サルカールの実績を引っ提げて、ムルガダース監督はラジニカーントの次回作【Darbar】を絶賛監督中。これもすごそう~。
映画にしたい主題がキッチリあって、古い世代と渡り合って問題作をがつーんと公開する気概のある若手(カーラのPa.ランジット監督だったり、【Mersal】のアトリ監督だったり…)が他にもたくさんいる状況。 なんか、タミル映画界の未来は末恐ろしい、ますます楽しみだ。
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話変わって、アクションが、スローモーションバリバリで、ヴィジャイにしてはスローすぎない?と最初とまどったんだけど、見慣れてくると、逆に新鮮で、どこを切り取っても絵になる!歌舞伎だ!という感じでしびれてくるのが不思議。今回のアクション監督は、公開前からとても楽しみにしてました!
アクションシーンの中で、今までのヴィジャイ映画のオマージュのようなものがお約束でさりげなく出てくるんですけど、こういうのはアクション監督の趣味で挿入されるのか、監督自身の要望なのか。 いつか質問できる機会があれば聞いてみたい!
インターミッション前の「I’m waiting」(日本語字幕では「望むところだ」と訳がついてました)は監督の明らかなサービス台詞だと思うけど、最後のアクションシーンでの【Jilla】や【Kaththi】で出てくる仕草(石投げ、頬を押して首をゴキッ)とか、また、たまらなかったなあ~!
はあ~。かっこよかった。熱いメッセージ、受取りました。
こないだの参議院議員選挙も、サルカールを思い出しながら投票に行きましたけど、これからも選挙、行きます!
でさ、ヒロインのキールティ・スレーシュとの恋、はどうなっちゃったんでしょ? 彼女のパパの選挙はどうなったんだ?(議員になれたのかな?ヴィジャイ陣営についたのかな?) この辺の尻切れトンボ気味な点だけは、若干ざんねん。 【Bairavaa】みたく、派手に結ばれてほしかったんで。この2人のペア、かわいいんだし!
悪役のヴァララクシュミ・サラットクマールが女性陣では話題をかっさらいすぎましたかね。初見時、あ、この女の子、【ヴィクラムとヴェーダー】にも出てたあの子じゃん!とVikram VedhaのDVDジャケットを後でしげしげと眺めたのを思い出しました。
ドスがきいてるお嬢様のシーンもよかったけど、州首相のお父様に薬を過剰に飲ませた後の見守る表情が怖い顔じゃないんだけど穏やかな狂気というか、個人的には、そのシーンが自主上映で最初に観た時から一番彼女のシーンでは好き。表面的にはお父さんの健康を単純に見守っているようで、でも迷いなく薬をぽんぽん渡していて、あ、これはお父ちゃんを殺すんだな、ゾゾー、って感じで。
その後の「弔い選挙」作戦、日本のそれを観ているようで、とても怖いものを感じた。
最後に、日本語字幕をつけて上映してくださった、IMW関係者のみなさま、ありがとうございました!
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参考リンク
サルカール、自主上映時の告知記事(まだ観てないときの予想する見どころって、こんな感じだったんだな。我ながら、ほほえましいw)
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